第10話三章 ピュアとレオンと×××①
私が城の中の台所で朝食の後片付けをしていると……。
「お前が好きだっ! ピュア! ずっと俺の花嫁でいてくれ」
「!? !? !?」
朝起きたらレオンがぶっ壊れていた。いや、壊れてるというより素直な心の声が表に出ていた。
どういう事か分からずポカンと私がしていると。
「ああああ! 言えた! 自白魔法を使ったから……」
(好きだ好きだ好きだピュア。自白魔法がなくても思った通りに言えるように頑張るから見放さないでくれ!)
ああ、なるほど。そういう魔法を使ってるのか、今のレオンは。どうりでおかしいと思ったら……納得。
でも、ビックリしたけれど嬉しかった。夢かと思ったもん。
「返事はないのか、ピュア。ダメか、俺じゃダメなのか」
「そんな事ない! 嬉しくて感激で言葉が出なかったの」
「今まで毒づいてごめんな」
いや、癒されてましたけれど? 口下手すぎて可愛いとしか思ってなかったですけど?
そんな所に惚れたようなものですけど?
レオン本人は頭を下げるほど大真面目だけれど、全然気にしたことなかったんだけれど、
こう、口に出して直接言われるとさらに甘いっていうか、声の威力半端ない。レオンって凄くいい声をしてるんだもん。
「ただ自白魔法は数分しか使えない上に一人一回だ。
これからもどうか俺を見放さないでくれ。大好きだ、ピュア」
「う、うん」
あれ? レオンの心の声が聞こえにくい。気のせいかな?
浮かれてるから、心臓の音のせいでかき消されてるだけだよね?
生まれてから一度も聞こえなくなった事なんか一度もなかったし。考えすぎだよね。怖いから考えるのをやめようっと。
うん、気にしない! きっと気づいたらいっぱいレオンの心の声が聞こえるようになるはずだし。
(お腹減った)
ほら、聞こえた聞こえた。レオンの心の声。
「レオン、朝ごはん作ってあげるね」
「別にいらない!」
よし、心の声では何を求めてるかな? パンかな、スープかな?
「…………」
あれ、また聞こえない。うーん。困ったな。
とりあえずコーンスープにパンにサラダにしよう。
後ウィンナーを焼いてカニさんにしよう。うふふ。
「おい、どうした? ピュア」
「別に、なんでもないよ。不安そうな顔しなくていいから」
「俺は元気だ! ムンッと強そうな顔をするレオンは子供のように可愛い。
私は思わず撫で撫でしようとしてレオンに手を掴まれてしまった。
あーあ。残念。代わりにギューッと抱きしめとこう。うーんいい匂い。
「離れろ!」
「はいはい。朝ごはん作ってくるね」
「フン! ってあああ。また素直になれなかった」
青ざめるレオン。大袈裟な。私は苦笑いする。
「大丈夫、すぐに人間って変われないから。わかってるよレオン」
「す、すまない」
「気にしないで朝ごはんを待ってて」
私もお腹が空いてきたし、早く作ろう。そう思いながら目眩を感じる。
「ああ。わかった」
レオンがジッと私を見るので私はニコッと笑う。
そしてしばらくして、朝ごはんを作り終わり食卓に並べる、うん、我ながらいい感じにできた。
レオンは手を合わせた後に無言でそれを食べる。そのレオンをジッと私は見つめる。
「なんだよ」
「ううん、何でも」 心の声待ちをしていただけだけど、言えるわけない。
レオン側もそうだけれど、私達の交流って心の声ありきで成り立ってたんだね。
かなり反省。もっとお互い歩み寄らないとね、夫婦なんだから。名ばかりだけれど……。
「お変わりいる?」
「い、いらな……いるっ!」
一生懸命強がりを治そうとするレオンが尊い。私も、もっとレオンの態度から汲み取らないと。
嘘をつく時の癖とか、研究してしっかり覚えるべきかもしれないわね。
朝ごはんを食べ終えて、私達はふたりソファに座る。続く沈黙。どうしよう。何を話せば。
「レオンって、どう育ったの?」
今更すぎる上にデリケートな話題を私は思わず出してしまい焦る。
「お父様とお母様とひっそり暮らしながら、近くに生きている魔族と仲良く生きてきた。
それを、村の奴らに根絶やしにされて、俺だけ生き残った。両親だけじゃなく、魔族も皆俺を、俺だけを生き残らせようと頑張ってくれた」
「そうなんだ」
やっぱり、魔族もいたんだね。思ったより大変な魔王退治があったみたいで、私は目を覆いたくなった。
きっと私の両親も何らかの形で参加したのだろう。
だって、そういう集団心理に弱く、見栄っ張りな人だから。
どうせヒッソリ後ろに隠れて立っていただけだろうけれど。
「俺たちは悪いことはしないと、何度もアピールしたけれど、聞く耳を持つ奴は誰もいなかったな。
魔力の低い魔族は、死んだら骨すら残らず消えるから、もう墓参りもしてやれない。
本当に悔しいけれど、みんなの命を犠牲に生きている俺はいつか立派な魔王にならなければいけない。
誰相手でも平和に暮らせる、もっと器用で温厚な魔王に」
「レオン、私協力する。ふたりで人間と仲良くできる魔王と王妃になろう! でも、魔王退治をした村とは疎遠でいいから、ね」
「俺も正直あの村は無理だし関わりたくない。トラウマだ」
だよねぇ、当然だと思う。私が同じ立場なら絶対そうなるし。無理無理。
あの村はよく金になるからと魔獣を殺していたりするし、レオンとは絶対仲良くなれないと思う。
私の唯一の会話相手だった懐かしい幼馴染とおばあちゃん(もう生きてないけど)ぐらいしか話が通じる人がいないし。 あーあ。幼馴染にあいたいなあ。寂しい。どうしてるのかな。
でも、あのこはいい家柄の子だからむやみやたらに遊び歩けないよね。はあ。
レオンに他の人間の友達ができたら、と思うんだけれど……うーん。
でも、私側が幼馴染にやきもち妬かないか不安。
「でも、あの村があったからこそピュアが生きていてくれたと思うと微妙な気持ちになる」
「そうね。でも、争いが起きず共存してれば私達は幼馴染だったかもしれないのよ。それってとってもロマンじゃない?」
「……確かに」
(でも……だな)
何か言ってるのはわかるのに、心の声はやっぱり聞こえにくいままだった。
まるでノイズが入っているみたいに、どんどん遠くなる。寝起きはもう少しクリアに聞こえたんだけれどなあ。
はあ。どうなっちゃうんだろう本当。
「ねぇレオン、これから私達はどうするのかしらね」
「俺は、まだわからない。まだ人間へのトラウマは根深すぎて」
「そう、だよね。怖かったよね、魔王退治」
「俺があの時戦ってれば」
「まだ一桁ぐらいの年齢でしょう?」
「そうだな。無駄死にしかできなかったかもだけれど」
レオンが深刻な顔をする。
「どうして、人は物事を前と悪に仕分けようとするんだろうな」
「そうね……そんな明確な仕切りで分けれるほど、物事って単純なものじゃないのにね」
正直、自分を善人と思いたいがために悪人をわざと作るのではとさえ、今回の事件にときな関しては思う。
だって、レオン達は悪じゃない。
けれど、村にとって魔王は悪であって欲しいし自分達が勇者になりたい、だから。
なんて、考えるだけで憂鬱になってくるけれど。
「あ、蒸したお芋ができたみたい。食べましょう! レオン」
「ん、ああ」
「考えるのに疲れたら美味しいものを食べるのが一番だよ」
「そうだな」
私とレオンは、芋を半分こして仲良く食べた。***
「ないっ、文献にもないっ! 書庫にないならもう探せないじゃないの!」
ヒステリックに私はひとり叫ぶ。現在、レオンのお父様の書庫にいるのだけれど、私の心の声に関する文献はひとつもなかった。
この前の本では能力までは触れてないし、どうしよう。心底困った。頭を抱えながら涙目になる私。
一冊一冊真面目にチェックしたのに……途中魔族の歴史に目を奪われたけれど……それは今度読むとして。
不思議な力と名の付くものは複数あれど、それは全部関係ない魔法についてばかりだった。読むたびに何度ため息をついたかわからないぐらいだ。
「はあ、疲れた」
目の前にある本のタワーを見て座り込む。これ、元の本棚に戻すだけで一苦労なんだけれど……!?
もうやだよ、私にも魔力があれば魔法でポイッて直せたのに。ぐぬぬ。レオンに頼むのも理由を聞かれたら説明できないし。さらにぐぬぬぬ。
レオンは今何してるだろうか、お昼寝か庭にいるのかな。もししばらくここに入らないなら、散らかしたままでてってもいいよね? 後で私が片付ければ何も問題ないよね。
「危ない! ピュア!!」
「きゃあああ!?」
ドサドサドサ!! 大量の本が本棚から降ってきた。顔を上げれば、私の上にはレオンが覆いかぶさっていた。
「ありがとう、レオン。助かったわ」
「俺はここに偶然きただけで! 助ける気なんかなかったんだからな! ってあああああ! すまない、心配でここに来たんだ……!」
ひとりでドタバタ騒ぐレオンは可愛い。涙目で私をじっと見るので、私は吹き出すしかない。あーあ。レオンって本当凄く和むなぁー。私の癒しだね。本当。
「うふふ、そうね」
私はレオンの方を撫でる。
あーあ。私、一番大切なことを忘れていたわ。
何も聞こえなくなっても、レオンはいい子じゃない。何を悩んでいたの? 私って馬鹿みたい。どんな姿でどんな声でも、レオンはレオン。きっと私はすぐにそのレオンを好きになる。
決まってるじゃない。だって私たちは運命の夫婦に決まってる。私が心が読めたのも、レオンに出会うため。そう思うと今までの人生の辻褄が合うんだもの。
窓の隙間から風が吹いてカーテンがヒラヒラと舞う。
「ねぇ、レオン。いい天気だし一緒に日向ばっこでもしない?」
「ああ、そうだな」 ゆっくり休んで寝てまた、難しいことはその時考えればいいよね。そもそも普通の人間は心の声なんか初めから聞こえないんだし。
私は普通になったと考えれば、それは別に怖い事ではないし、逆にラッキーなのかもしれない。
私とレオンは部屋から出るとふたり深呼吸をした。
「いい空気―」
私は両腕を広げてはしゃぐ。うーん気持ちいい。最高。
レオンはそんな私の後ろに立って、振り向くと優しい顔をして笑っていた。
穏やかなその表情は彼本来の性格をよく表していた。
撫でるように吹いていく風に当たりながら大きな木の日陰でにふたりで横になる。ふわふわの葉っぱの絨毯の上はとても気持ちいい。なんとも言えない草木の芳醇な香りは嫌いじゃない。
何よりレオンとこんなにも自然に接近できればぶっちゃけ匂いなんてどうでもいい。レオンはウブだし奥手だから、何か理由があっても触れると恥ずかしがる男の子だし。可愛いけれど、正直寂しいんだよね。「ふうー」
私は大きく息を吸って伸びをする。そしてわざとレオンの方に転がってみる、けれどレオンはすでに寝息を立てていた。スゥスゥと可愛い寝息を立てているレオンを見て私の顔はだらしなく崩れる。
レオンのほっぺたをそっとつついてみたり髪の毛をいじってみたり。やりたい放題する私。それでもレオンは起きない。まるで子供のように熟睡して、幸せそうな顔をしている。
「んんー……ピュア」
「あら、私の名前を呼んでる。レオン可愛い」
「スゥースゥー」
一体どんな夢を見てくれてるのかな。レオンの夢に出られて、私超!光栄です。夢でどんどん私に触れて、リアルの私への免疫をつけてもらいたいところ。まあ、レオンだし期待できないけれど。
私は先ほど部屋に戻って撮ってきた紅茶のセットを手に取り、美味しく頂く。暖かな入れ立ての紅茶に、ミルクとお砂糖をたっぷり入れる。うーん、リラックスできるし、なんだか私まで体が暖かくなったから眠くなってきた。 ぼんやりした視界の中、私はレオンの手を握る。あったかいその大きな手を握ると、さらに私は眠くなってそのまま眠りの世界に引っ張られていった。
そして。
「ん……あれ、外が暗い? もうこんな時間?」
「あ、お前か。起きたんだな、俺もさっき起きた」
(本当はピュアの寝顔に見惚れてたなんて言えるか!)
「! レオン、おはよう! そうなんだね」
あれ。今何か聞こえてーー。
(可愛かった、超可愛かった。お人形さんみたいな寝顔だった。人形は文献でしか見た事ないけれど!)
聞こえるじゃん! 嘘!!
あれだけ心配したのに……寝て起きたら治ってるなんて。
どうやらやっぱり疲労のせいだったみたい。よかった……のかな? はあ。心配して損した。
(バレてないよな、バレてたら恥ずか死ぬ)
ごめん、レオンバレてるよー。モロバレだよー。なんて言えないまま私は俯き気味に笑いを堪えたのだった。
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