第4話一章 偽りの少女と臆病な魔王の不思議な出会い④

***


 今日はいい天気だ。天気と一緒に晴れ晴れとした元気な気持ちの私は、村へ行ってとあるものをちまちまと買ってきた。

 村人はそっけない感じの対応だったけ正直レオンにさえ冷たくしないでいてくれれば、私は文句なんか言わない。

 私と違ってレオンは傷つきやすい繊細な男の子なんだからね。

 虫や暗いところに怯える可愛い可愛い泣き虫な魔王。

 絶対人なんか殺せない、普通の村人よりも怖くない私の大切な魔王。


「ヨイショっと」


 シャベルを手に取り、疲れた私はため息をつく。ああ、大変だった。

 土を耕し煉瓦を集め、花を運び……そう、私はレオンのために可愛い花の花壇を作っていたのだ。

 そりゃね。魔城の周りには薔薇はあるけれど、もっと可愛い小さくて癒される花が欲しいって思って。

 植物は人の気持ちを癒してくれるから。私は昔から花が好きだし、手入れも慣れている。

 まあ、レオンの嫌いな虫もおまけでついてくるけれど……。そんな虫達からは私がレオンを守ってあげるけれどね! えへへ!


「よし、出来た」


 色とりどりの花が花壇に咲く。それと他に、枯れる寸前の花も無料でもらってきたんだよね。これで色々アレンジするつもり何だけれどレオンはどこかな?

 と思っていると、ぼんやり日向ぼっこするレオンを発見した。


「あ、レオン! 来て! こっち! こっち来て!」


 私は素早くレオンに向かって叫び手を振る。レオンが私に目を止めて、その後背後にある花壇を見て目を輝かせた。

(何だ、あれ。綺麗なピュアと綺麗な花達)


「花壇、作ってみたの。見てよー」


 嬉しくて跳ねるような声で私。レオンはまだ花壇と私を交互に見ている。

 赤白黄色、ピンクに紫。カラフルで可愛い私の選んだ花は、レオンに喜んでもらえたみたいだ。


「あ、ああ」


(花を持ったピュアも可憐だ……可愛い、花より笑顔のピュアが猛烈に可愛い)


 いやいや。てれてるレオンの方が可愛いから。そして私は隠し持っていたものをレオンの頭に乗せる。


「うわあああああ! レオン可愛いー!!」

「!?」

「大丈夫、花かんむりだから、変なものじゃないから。取らないで」

「邪魔」

「取らないで!」


 まるで天使の輪っかのような花かんむり、超似合ってるから! 

 天使ってより大天使って感じだけれど……あああああああああ!! 堪らない。


「そのままでいて! レオン!」

「あ、ああ?」


 反射的に怒鳴る私に戸惑い気味に従うレオン。

 それから数十分。

 さすがにレオンは空を見上げ私の様子をうかがい手を頭の上に向けた。うう。

 さすがにこれ以上何もさせないのは酷いよね。ごめん、どうぞ、花かんむりを好きにしちゃってください。レオン。


「花かんむりか……懐かしいな」


 スッと花かんむりに手を伸ばし、まつ毛の長い目を細めて自分の頭の上からゆっくり引き下ろす。


「可愛いな」


 ボソリとレオンがつぶやく。

 本人は声に出していることに全く気がついてないない様子で微笑んでいる。

 うう、この瞬間を目に焼き付けないと……私に絵が描ければ……ぐぬぬぬ。あああああ! レオン、可愛い。好きだ! 好きだー!! 

 君が好きだとリアルに叫びたい!! ああ。

 でもこれじゃ痴女だ。ダメだ私痴女デビューしてしまう……!!


(ピュアとお揃いにしたいな。でも嫌がるだろうな)


 ごめんね! レオン! そんなに花はなかったんだ……本当にごめんね。 

 私だって一緒に花かんむりつけてふたりで似顔絵描いてもらいたいけれど……あああああ!

 そこでションボリしないで。考えてることがわかるだけに心が痛いよレオン。


(ピュアの方が似合うのに、さっきからなんでピュアは目を合わせないんだ? 俺が嫌いだからだ?)


「レオン! 花かんむりを貸して!」

「あ」


 やばい。深読みさせすぎた。私はレオンの手から花かんむりを奪い取り、頭につけて微笑む。

 するとレオンが可愛く可愛く笑った。そして冷静になり、自分の 顔をぶっ叩く。


「レオン!?」

「頬に虫がいてむず痒くて笑ってしまった」

「ええ……」


 そこまで無理に笑ったことを誤魔化さなくてもいいのに。うーん。

 風が強く吹いてきた。そんな時だった。


(お母様が昔、よく俺に作ってくれたな)


「!」


(お父様とお母様と、人間に見つからない場所で三人。サンドウィッチを皆で作ってピクニックに行ったなぁ。

 楽しかったなあ。川で遊んで、泥遊びもして、何しても許された、優しい両親に愛されて育った俺の子供時代)


 レオンが過去のことを思い出してしゃがみ込む。とは言っても眠そうに木にもたれかかる感じ。

 ああ、なるほど、疲れてるから日向ぼっこをしていたのか。それなら私、何気に余計なことしちゃったな。

 けれど、疲れてるとレオンも素をリアルに見せやすいんだなぁ。


(もしお父様お母様がここにいれば、ピュアと仲良くしてくれるだろうな。

四人で暮らしたかったなあ。なんで、魔族ってだけで、魔王ってだけで命を狙われなきゃいけないのだろう。

結局は生まれもっと立場で未来は決まってしまうんだろう? 最悪だ。このせいは救いなんてないんだ。はあ)


 レオン……。


(でも、今はピュアがいるから死にたいとは思わなくなった。絶望に飲まれていてはピュアを守れないからな。

俺のためにこんな魔都にやってきてくれた可愛い女の子を、俺が守ってあげなくちゃ男失格だろう)


 ウトウトしながらもレオンはそんなことを考えている。

 普段の性格に反して男らしい立派な思考なところもあるところが、本当にレオンのいいところだと思う。

 本当に小さい頃は大切に愛されて育ったんだなぁと言うのが何をしていてもわかる。

 私にはそう言うのがなかったから、それは羨ましいと思いつつそれを失った痛みは私以上なんだろうとも想像がつく。

だから私は、それを奪った過去の勇者達をはっきり恨んでいるし、私もレオンと普通の対等な立場で出会えればとは思う。


 この薄暗い魔都でふたりきりで生きる。

 それって、本当はそうでなくてもいいはずなんじゃないのかな。だってレオン、何も悪いことしてないじゃん? 

 ただ魔王に生まれただけ。人どころか虫ひとつ殺してなさそうなレオン。

 普通の村人の方がは醜く汚いと言うのに、肩書きだけで全てを背負わされて、レオンは酷く可哀想だ。

 逆に、村人は人間とだけで全てから守られ救われている。


「レオン……」


 私は手と手を合わせれ空を見上げる。空は驚くぐらい澄んでいて鮮やかなぐらい青かった。


(お父様、お母様、どうか見守っていてください。いつか素直になれるように頑張るから。誰も俺からピュアを奪わないでください)


 レオンが静かに夢に落ちる頃、私は花壇の水やりを終えた。そして。


「あっ!?」


 まさかの出来事に私は戸惑う。だって。突然レオンと私の周りに虹ができたのだから。


「綺麗……」


 これはレオンの両親からの私たちへのプレゼントなのかもしれないと思った。私は当然レオンを揺り起こす。


「レオン、見て、虹、綺麗!」

「あ? お前の方が綺麗だろ? スゥー」


(なんかキラキラしてたぞピュア……綺麗なお日様と、空と、虹)


「……っ!?」


 また寝ぼけて本音(?)をレオンはくちばしったらしい。


「あ、猫ちゃん。久しぶり」

「にゃああ」


 この前の白い猫ちゃんが私達の近くを通っていく。品のある猫ちゃんだなぁ、なんて思い毛並みを眺める。



「可愛いでしょう、レオン。起こさないであげてね?」

「にゃああん」


 ニコニコ顔で猫は鳴く。そしてピョンとレオンの肩に乗るとレオンの頬をスリスリした。

 あー可愛い。凄く絵になる、あー私、スケッチの練習した方がいいかも。

 レオンの全てを描けるようになりたい。全て? キャー! そう意味じゃない、けれど……。


 ああああ、そうだよねぇ、いつかは私たち結ばれる運命のはずなんだよね。

 考えると恥ずかしいけれど、そういう事をするんだよねぇ。はあ。キスだって正式にはまだなのに。無理! 絶対恥ずかしすぎて無理!

 なんて私が髪の毛を振りながら暴れていると。


「ん、あ……んんん」

「あ。レオン。おはよう。そういえばてんとう虫が顔についているけど」


 赤くて可愛いてんとう虫だけれど、レオンはそれを知ると怯えた顔をした。

「! 取ってくれ! 無理! 俺がどかすと殺してしまう!」


(虫さんが死ぬのは嫌だ、可哀想だ。でも俺虫苦手なんだっ!!)


 ガクガク震えるレオン。私はレオンに近づきてんとう虫をとってホイと逃す。


「はいはい。よし、無事虫さんを逃がせたよ、レオン」


 私の腕に手をしがみつくレオンは大きなため息を吐いた。

 それが私の髪の毛にかかって、なんとなく色っぽいものだから私の顔が熱くなる。


「ふう……よかった」


 魔法を使えば虫を殺すのも簡単なのに、レオンは怯えながら虫を逃した。

 ああ。やっぱそうするんだなぁって思って私は満たされた気持ちになる。相変わらず臆病なところも可愛いし、私はホッコリした気持ちになる。


「レオン、なんで座ったままなの」


(腰が抜けたんだ)


「別に! もっと寝ようかなって」


(ううう、気づかないでくれピュア……自分でも情けないと思ってるんだが、怖くて、怖くて)


 怯えるレオンの目はグルグルしている。これぐらいで挙動不審になるなんて、なんてラブリーなの! 

 思わずニヤケ出す私を不思議そうに見えるレオン。なので、私はレオンの隣にトンッと足を閉じて座った。


「ふふ、私も隣にいいかしら? いいよね。この木。葉っぱも大きくて日向ぼっこに向いてる感じ」

「フンッ。別に俺だって独りで暇だから仕方がなく日向ばっこしかしてないわけじゃないんだからな!?」


(本を読んだり紅茶の淹れ方の研究をしても、誰にも話せないし試せないしつまらなかったんだぞ)


「わかったか!? 俺は寂しくなかったんだぞ!! きっとレオンなら寂しすぎて泣いてたとかいうなよ!?」

「誰もそんな事は言ってないけれど!?」


 大混乱のレオンの思考回路に私は噴き出す。


(だって人混み怖いし、虫も怖いし、人間もっと怖いんだ)


 目を合わせてくれないレオンをじっと見る私。そしてさりげなくレオンの大翁手に私の手を重ねる。


「わっ!?」


(ピュア!? 一体なんなんだ!?)


「一緒にお昼寝しよ。レオン」

「はあ!? 独りの方がいい夢みれる!」


(無理! 無理!! また寝不足になるだろう俺!)


 純情なレオンの気持ちはなんとなくわかる、わかるけれど。



「私たちっていわゆる魔王と王妃で夫婦なんだから、少しずつお互いになれるべきだと思うの」


 目を炎のようにギラギラさせてレオンに詰め寄る。

 レオンはまだ腰を抜かしているらしく、動けないまま涙目になっている。ウフフ。私って肉食獣みたい。

 そんな時。空の様子が怪しげになってきた。


「雨、振りそうだね。行くよレオン」

「ん、ああああ!」


 どうにか力をこめてて気を掴みながら立ち上がるレオン。

 よかった。このままじゃレオンが風邪を引く。はあはあと洗い息を撒き散らすように吐くレオン。

 私をジッと見て、その瞬間。魔城まで飛んだ。


 それは秒で終わる異動魔法だった。魔法の呪文も何もいらない。

 ただ力を願うだけで魔力をいくらでも使える。大魔法使いとも別名では呼ばれるのがこの世界の魔王達である。

 体は特別大きく、身体の中に魔力タンクが存在し、ほぼ無限の魔法を使い続けることが可能。

 悪用しようとすれば世界も滅ぼせるという、魔王達。


 そもそもその魔王達との戦いの記録は一般市民には公にされおらず、どこまで事実なのかはわからない。けれど。はっきりわかるのは、レオンの魔力は膨大で、とても強いものだという事だ。

 一般市民は呪文を唱えたり道具を使いようやく魔法を使うと言われてる。魔法学校だって十年ぐらいは大体の人間は通い続けなくてはいけない。レオンは絶対学校になんか通ってもいない。ずっとここでひっそり生きてきた。そんな生き物を敵に回すのが怖いのは、さすがに私でも理解できる。



「中にとっとと入ってろ」


(風邪ひくなよ、ピュア。ゆっくりリラックスするんだぞ。夕飯なんか遅くなってもいいんだからな?)


 私を部屋の中に入れると、レオンはスゥッと姿を消した。


「うん、わかったよ。ゆっくり休んでね? レオン」


 私の声が聞こえたかはわからない。けれど普通じゃない人間に対する人間の露骨な態度や行動の怖さはわかるつもりでいる。

 だって私だって生まれつき忌々しい心読みの能力を持っているのだから。

 レオンといると自分が忌み嫌われたものだと忘れて幸せな気持ちに浸ってしまう。

 けれど。それぐらいレオンの気持ちは暖かく私を包み込んでくれるけれど。


「そろそろ、タイムリミットかなぁ……」


 こんなに順調に幸せな日々ばかりが続くわけ、ない。

 きっとそろそろ何かが起きる。


 そう思った時。


 大きな雷の音が聞こえて、私は黒い窓に掛かった真紅のカーテンをひいて中に閉じこもったのだった。

 

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