第3話 野良犬のワルツ3
夕方、二人が肩を落としながら路地を歩いていると、正太郎と鉢合わせた。
「何してるんだ、勉強もせずこんなとこ……」
文句を言おうとした正太郎は、言葉を止めた。二人のただならぬ様子に気付いたようだ。
二人は、雄介の事について正太郎に経緯を話した。
正太郎は、話を聞くと、手を顎に当てて考え込んだ。
「そうか……心配だな。……しかし、畑の場所を聞いておいて訪ねていない?どういう事だ……」
「……まさか、誘拐?」
雪子が、不安そうに言った。
「それはないだろう。一昨日も話しただろう。あいつの家、経済的に苦しいって。誰がそんな家の子供を攫うんだよ」
康太が否定した。
しばらくして、正太郎は目を見開いた。
「……まさか!」
そう言うと、正太郎は走り出した。
「どうしたんですか、正太郎さん」
雪子が聞くと、正太郎は振り向きながら言った。
「沢田さんの畑に行く!」
もう辺りは暗くなり始めている。
雪子達三人は、手分けして沢田さんの畑とその周辺を探していた。沢田さんには事情を話してある。
雪子が畑の周りを探していると、小さいながらも泣き声が聞こえた。草むらをかき分けて進んでいくと、そこには雄介が蹲っていた。獣を捕まえる罠に引っかかって、足を怪我しているようだ。
「見つけた!見つけたよー」
大声で叫ぶ。皆が集まってきた。
「畑のものを盗もうとしたんだな。警察に連れて行くか」
沢田さんが言った。
「それより、怪我の手当てだ。化膿したら、死ぬ事だってあるんだぞ!」
正太郎はそう叫ぶと、服に血が付くのも構わず雄介を背負い、沢田さんの家の中に急いで入って行った。
家の中で、手慣れた様子で雄介の手当てをする正太郎を、雪子は何も出来ずに見ていた。
数日後、正太郎の家を雪子と康太が訪れていた。正太郎の母親が、二人にお茶を出してくれた。雪子は何度も会った事があるが、笑顔の少ない、厳格な印象のある女性だ。
「雄介を助けてくれて、ありがとうございました」
康太が、早速正太郎に礼を言う。
「……別に。やるべき事をやっただけだ」
そっけない返事だが、二人共、正太郎が優しい人間だという事はわかっている。
雄介は、家の経済状況が苦しいのを察して、沢田さんの畑から作物を盗み、自分の家の作物と混ぜて売ろうとしていた。
沢田さんは雄介を警察に連れて行く事も考えたが、雪子達三人が必死で説得した為、雄介は警察に連れて行かれずに済んだ。犯行が未遂だった事が幸いした。
「でも、よく畑を探そうと思いましたね」
雪子が言った。
「畑にいると確信していたわけじゃない。雄介が畑の事を聞いていたから、沢田さんの家に行っていないなら、畑か、畑までの道中で動けなくなっているかもしれないと思っただけだ。……盗みを働こうとしたという考えが当たってしまったのは残念だが」
しんみりとした空気になった。
「でも、本当に正太郎さんのおかげで助かりました。雄介の怪我も大した事無かったし」
「……そうだな」
康太の言葉を聞いて、正太郎は穏やかに微笑んだ。
そんな正太郎を見て、ぼんやりと雪子は思った。将来、この人を助けられるような人間になりたいと。
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