第4話 燃える裏庭1
ある朝、雪子は学校の教室に入ると、いつものように友人と挨拶を交わした。
「ごきげんよう、
「ごきげんよう、雪子さん」
「雪子さん、課題は終わりました?」
「ええ、何とか」
「さすがですね。私はまだ終わってないんですよ。提出の締め切りは明後日なので、何とかなりそうですけれど」
雪子が課題を早く終わらせる事が出来たのは、正太郎に勉強を教えてもらったからだと思うが、それは言わないでおく事にした。
真知子が自分の席に着こうとした時、一人の生徒とぶつかった。
「ご、ごめんなさい……」
謝ったのは、同級生の
「こちらの方こそごめんなさい」
真知子が、にこりと笑って謝る。桜子は、会釈をして去って行った。
「……桜子さん、成績は優秀なのだから、もっと堂々となさったら良いのに……」
真知子が、手を頬に当てて呟いた。
三日後の朝、雪子はいつもより早く学校に着いてしまい、裏庭へと歩いていた。裏庭には小さな花壇があるので、花に水でもあげようと思ったのだ。
歩いていると、どこからか焦げ臭い匂いがする。雪子が慌てて裏庭に駆け付けると、花壇に火がついていた。
辺りを見回すが、すぐ水を掛けられるような状況にない。雪子は、人を呼ぶべく裏庭から引き返した。
「今朝は大変でしたね」
放課後、真知子が雪子に話しかけてきた。
「そうですね。
あれから、教職員たちの手によって火は消された。
「……でも、西岡先生が原因だというお話、本当なのかしら」
真知子が眉根を寄せる。
火が消えた後、花壇の周辺から一本のタバコの吸殻が発見されていた。以前から、この学校の教師の一人である
「ご本人は、否定されていると聞きましたが」
雪子が応えた。
教職員が西岡に話を聞いた所、西岡は今朝、遅刻ギリギリで学校に到着した為、裏庭でタバコを吸う機会などなかったと言う。
今朝、小火が起きる前に西岡を目撃した学校関係者はおらず、西岡の話を肯定も否定も出来ず、真相は未だ解明されていない。
「謎ですね」
「謎と言えば、もう一つ気になる事がありましたね」
真知子が話を変えた。
昨日締め切りだった課題。職員室に保管されているはずのそれが、今朝無くなっていたというのだ。せっかく課題を早く終わらせたのに。
「本当に、今日は変な事ばかり起きますね」
雪子は、顔をしかめた。
その日家に帰って勉強をしていると、正太郎がやってきた。雪子に勉強を教えに来たの
だ。最近は雪子の自主性に任せているのか、来る頻度は少なくなってきているのだが。
「そういえば、先日の課題はちゃんと提出したのか?」
部屋で勉強していると、不意に正太郎が聞いてきた。
「提出しましたけど、徒労に終わりそうです」
雪子は、保管されていた課題が無くなった事や、小火が起きた事を話した。
「……そうか。まあ、お前が怪我したとかじゃなくて良かった」
「……どうも」
正太郎に心配されると、嬉しいような心苦しいような、何とも言えない気持ちになる。
勉強に集中できなくなった雪子は、蓄音機で『子犬のワルツ』を流した。この蓄音機、実は元々正太郎のものだった。
「それにしても、こんないいものもらって良かったんですか?この蓄音機、壊れてるとかじゃないですよね」
「いいんだ。音楽が好きだった父が買ったものだが、俺も母もあまり聞かないからな」
「ふうん……」
正太郎の父親は、貿易の仕事をしているようだが、忙しく、あまり家に帰ってこないらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます