第25話 汚い、格好悪い仕事。

 むかしむかし、

 顔じゅう泥だらけになりながら石を運ぶ若者がおったとさ。


 若者は、いつも洋服を泥だらけにしながら、こんな仕事いつかやめてやる。周囲に愚痴ばかりこぼしていました。


 「オレにはもっとこう華々しい、うんとスポットライトの当たった、派手な仕事の方がむいていると思うんだ。けれど誰もオレのことをわかってくれない。オレは選ばれし者だ。今に見ていろ、世間をあっと言わせてやる」


 石を運ぶ弥七は泥だらけになりながら、同僚を横目に、こんな奴らと一緒にされてたまるか。悪態をついた。


 あるとき頭領に呼び出された弥七は、みなが酒を飲む宴会の席で、どうしてこんな仕事しかないのか。こんな事してて楽しいのか?

 親分に尋ねた。


 「親分、どうしてこんな仕事ばかりなんですか? もっと格好いい、着物を着てやるような、そんな仕事、ないんですかい? 石や泥を運んで何が楽しいんですかい? こんなの意味ないですよ。人生の落伍者みたいなものだ」


 弥七は親分の目をきっとにらみつけ言った。

 丸亀親分は少しだけ困った顔をして、教え諭すように弥七に言った。


 「そうか、おまえには汚い仕事のように映るのか。若いおまえには無理もなかろう。でもな、この大きな石が集まれば城の石垣になる。おまえは石を運んでいるんじゃない。城を造っているのだ。おまえが運んでいるのは立派な城主の城、その石垣なのだ。汚い石なんかじゃない。間違えてはいけない。大切な城の石垣なんだ。国を守る石垣だということ、忘れるでないぞ」


 弥七には汚い、山に転がっている石や泥を運ぶ仕事が無意味に思えて仕方なかった。丸亀親分はつい若かりし頃の自分を思い出していた。


 こんな時代もたしかにあったなと、若い弥七を見て自分を振り返った。

 多くの物事は表面しか見えないことが多い。


 会社の仕事もそうだ。

 複雑に絡み合っているものの、大きな仕事に携わるのは、ほんの一部の人たちだけで、多くは小さな1コマ。1つの歯車を任せられているにすぎない。弥七は気付けずにいた。


 「いいか、弥七。よく聞きなさい。オレたちは、石を運ぶ仕事をしてるんじゃない。泥を運んでいるわけでもない。城を造っているんだ。お侍さんに感謝されることはあっても非難されることはない。ひいては農民の暮らしも守っている。そのことを忘れるでないぞ」


 丸亀親分は顎髭をなでながら弥七に言った。

 弥七には、何を言っているのか、とんとわからなかった。

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