第3話 男らしい、自己中は実は同じ言葉。
ここに離婚したカップルがいます。
彼女が男性に惚れた理由は男らしさでした。
高校時代からリーダーシップを発揮する彼は、どんな時でも自分の意見を貫き、初志貫徹、自分の意見を曲げないことで有名でした。そんな男らしい彼氏の後ろ姿に憧れ、彼女から男性にプロポーズしました。
この男性を狙っていた女性は他にもたくさんいて、多くのライバルを出し抜き、彼女は見事に彼氏のハートを射抜いたわけです。
浮き浮き顔で結婚したA子さんでしたが、結婚5年目、彼女は離婚の危機に直面します。子供ができないことを理由に、彼女は離婚を決意します。彼女が離婚を決意した理由は、男性の性格が自分勝手、つまり自己中なことでした。
何か重大な物事を決めるにも、2人で意見の交換をせず、A子さんの意見を全く聞こうとしませんでした。
何から何まで自分1人で決めてしまう彼を見て、いつしかA子さんは孤独を深めるようになりました。
自分は彼にとって何なのか?
自分は彼にとってお荷物なのではないかという思いに駆られ、やがて、もっと素敵な女性が彼にはふさわしいのではないか。
そう思うようになりました。
A子さんはまるで雇われた使用人みたいに、ただ部屋の中を掃除し、洗濯を繰り返し、3度3度の食事を作りました。
ただ彼の目指すもの、その目的のために利用されているような、そんな不思議な感覚は拭えず仕舞いでした。
A子さんには、家の中に居場所がありませんでした。
自分が必要とされている充実感もありませんでした。
完璧に家事をこなし、毎日洗濯し、料理をするだけの女中みたいな生活に、いつの頃からか嫌気が差すようになり、彼の顔を見るのが苦痛になりました。
この男らしさと、自己中。自分勝手さ。
実は表裏一体で、かなりきわどい言葉なんです。
つまり同一の言葉の、裏表を表した言葉なんです。
もっとわかりやすい言葉。
やさしさを例に取って考えてみましょう。
B男は誰にも優しく、その優しい性格に惚れて麻巳子さんが結婚を決めたとします。
B男は誰にも優しい男ですから、会社で麻雀の誘いがあれば断れず、飲み会に誘われればいい顔をしてホイホイついていきます。家庭の台所事情は火の車で、生活費を工面するのがやっとの状態でした。
「お酒を飲むお金、どこにあるのよ? 食費を削っているの、あなた、わからないの?」
そんな問いかけも、B男の胸には響きませんでした。
麻巳子の出産時、同僚とお酒を飲む道を選択したB男に、ついに麻巳子さんは堪忍袋の緒を切らします。そして麻巳子さんは離婚を決意するのでした。
もう、おわかりいただけましたでしょうか?
優しさ。
この言葉と同列な言葉。
表と裏の関係にある言葉。
それは優柔不断という言葉です。
誰にも優しい。
それは真の優しさとは異なります。
言葉の意味を取り違えると、優しさという言葉は、時に害毒となります。
多くの優男は、言葉の意味をはき違え、優しさを優柔不断さと間違えて振る舞います。
麻巳子さんがB男に求めたのは、麻巳子さんだけに優しく振る舞うB男の姿だったのです。誰にでも優しく振る舞う、優柔不断の彼を求めたのではありません。
麻巳子さんからしてみれば、優しさは自分に向けられるべきで、自分の家族に向けられるべきだと強く思ったことでしょう。
B男はそれを勘違いして、誘われれば断れず。
すべての人に優柔不断に接する道を選択したのです。
それを優しさと勘違いするには、麻巳子もB男も年を取りすぎていました。2人は離婚することで、お互いの関係を清算しました。
結婚を決めた理由と離婚を決めた理由。
実は反転していて、同一の言葉の、つまりは言い方を変えた言葉だということ、気付いていただけましたでしょうか?
つまり気をつけないと、自分では武器だと思っていることが、実は自分を傷つける材料になっていたりするわけです。
賢い人はその辺のことをよくわかっていますので、いたずらに誰それ構わず優しさを振りまいたりしません。
男らしさも、オレに付いてこいという強引さも、相手が求めてきたとき以外、滅多なことでは演出しないことです。
男らしさ、そして自己中。
優しさと優柔不断。
これらが同じ言葉であることをどうぞ知っておいてください。
相手が好意的に受け止めていれば《男らしく》受け止められますし、相手があなたに好意を抱いていなければ《自己中》の押売と見なされるわけです。
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