かりどめの翅

倉井さとり

かりどめの翅

白線をまたいでゆれるペンダント 胸のとびらを叩いたの、いま


共犯にしたいされたいそぶりにもベールをかけて 恋、ものごころ


待ち針の我慢をよそに針をのむ菊の虚栄きょえい金糸きんしがなびく


鼓動するかたち未満の恋路にも硝子細工がらすざいく縫合ほうごうの痕


温室の苺苺を目視してうずくくちびる腫れてとれそう


夜のと昼のちょうとを見比べてとりこぼすものが個性なんだよ


羽化だけをのぞみニゲラと同化したさなぎは時刻を求めているの


石花いしばなは割れたとしても治せます、花粉を水に溶いて塗ればね


ほら見てよ はねを隠して生きれてる 亡命さきは決めているから


常識の結び目をとくくらいには、私のことが好きなんだよね


覚えてね、私をほどくパスワード ならぶ数字を指でなぞって


各々おのおの蝶番ちょうつがいはね愛だからひらくことにも祈りをこめて


束縛で私を自由にしてみてよ 水に溶かした絵の具みたいに


キミだけは紙一重でいいんだよ 薄く殺して 淡く愛して


雨の夜 指で背骨をなめあって哺乳類のせつなさを嗅ぐ


くるしいの もだえてのびる爪を切る「葉っぱの味をわすれたんだね」


表情だ。ただれたキミの切なさに吸いつくハンドル、夢の片づけ


免疫を交換し合うことだけに意識を集中させてお願い


背もたれをきしませあおぐ天井でアシナガグモが巣づくりしていた


甘口な不在はまるで静脈をうちからなぞるかゆみのようで


蛇口からたれる時間の印象が夜の深さを操作している


ねぇ、言って。私のどこが好きなのか。磁石みたいに生きるのは嫌


頭、胸、腹部にわかれられたなら、この渇望もかたちを変えるの?


いままではあんなに祈ってくれたのにカビた途端にしらけるなんて


翅を捨てた刑罰けいばつなのか蝶が来て、人間である私を見つめる


このピンが刺さるところを覚えていて 映像として 象徴しょうちょうとして


おかあさま 霧のむこうの薄明かり まゆにくるまるかいこの瞳


細切れになった私も、私だよ。絵面えづらも、影も、匂いも、味も、


正直な思いをさらした押し花を白く囲ってたたえてあげて


蝶々のくあきらめにふりそそぐ朝のほたるび かりんば かりんば

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かりどめの翅 倉井さとり @sasugari

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