気づかないふりをしてよ
久石あまね
精神科に通っているところを同級生に見られたんだが
今年は暖冬なのか、妙に暖かい日が多い気がする。
僕はコートを脱ぎ、スズメたちがアスファルトを突付く様を流し目に、精神科の外来にやって来た。
精神科の外来は、溢れんばかりの人でごった返していた。しかし患者の表情は精神疾患をもっているとは思えないような、普通の人に見えた。
精神科だとわからなくて、もしこの病院に入ってきたら、おそらく精神科だとは思う人はいないだろう。
誰かが言っていたが、一昔前の精神科ではどんよりとした雰囲気が漂っていたが、最近はそんなこともなくなってきたらしい。薬の進化により、病気が軽症化しているのが、その理由だ。
僕が通院して六ヶ月がたった。
僕は高校二年生。
周りの友達は部活やバイト、恋愛などに勤しんでいるが、僕にはそんな余裕はない。
頭の中の誰かの騒がしい声や、どこまでも付きまとってくるストーカーが僕の理性を狂わせた。
そんな状態が高校入学後一年間続き、僕は己の精神が崩壊していく様を退廃的な気分で傍観していたが、身内が僕の異変を感知して、無理やり僕をこの精神病院に連れてきたと云うわけだ。
外来受付で診察券を出した。
早く診察をしてほしい。
スマホをいじりながら、待とう。
しかし空いているソファーがなく、これではゆっくり座って待てない。
僕は仕方なく、病院の外のコンビニでお菓子やコーラを買って、近くの公園で食べて時間をつぶそうと思った。
僕は病院の外に出た。
病院の外へ出ると自転車に乗った女子高生が通りかかった。
その女子高生は僕と同じクラスの吉岡さんだった。吉岡さんはたまに会話を交わすだけで、そんなに親しくはなかった。吉岡さんはごく普通の普遍的な女子高生だ。
僕は一瞬、吉岡さんと目があった。
僕が精神科にかかっていることがバレてしまったと思った。
吉岡さんは精神科にかかっている僕を見てどう思っただろうか。
誰もが精神科にお世話になる時代だ。
精神科に通うなどよくあることだろう。
まさかあの人が精神科にかかっているなんて。
高校生で精神科に行くなんて可愛そうだ。
精神科に通っている人とは関わりたくないな。
多種多様な意見があるだろう。
精神科から出てきた僕を見た吉岡さんが、僕のことをどう思ったかはわからないが、吉岡さんなら…。
普通の女子高生の吉岡さんなら理解してくれるだろう。
僕の立場を。
でも一番いいのは、僕のことを見なかったことにしてほしいということだ。
僕がコンビニに行くと吉岡さんがいた。
あまりの偶然に開いた口が塞がらなかった。
「あ、吉岡さん」
僕は片手を上げ言った。
吉岡さんは驚いたように僕を見た。
「ヤッホ~、来週期末テストだね。勉強頑張ってる?」
吉岡さんの頭の中では僕のことはなんとも思っていないようだった。
いや、あえて精神科のことに触れないようにしてくれているのか。
僕には吉岡さんが何を考えているのかわからなかったが、吉岡さんが善良な人だということはわかった。
気づかないふりをしてよ 久石あまね @amane11
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
病気だからって/久石あまね
★14 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます