僕のお年玉
青樹空良
僕のお年玉
お正月におじいちゃんの家に来ると、その時にだけ会う親戚のみんながお年玉をくれる。
「はい、
「ありがとう!!」
お年玉の袋を受け取るときは一瞬テンションが上がる。
だけど…。
「じゃあ、これはしまっておくね」
そう言って、すぐにお母さんが僕のお年玉をバッグの中にしまってしまう。
僕の手には残らない。
「貯金しておいてあげるから」
なんて言うけれど、今まで貯金したお年玉を後でもらったことは一度もない。
お年玉はいつも、僕の目の前を通り過ぎていく。
おじいちゃん、おばあちゃんがおもちゃを買ってくれたりはするけれど、僕は自分の手でお年玉を使いたいんだ。
トイレから部屋に戻ろうと、僕が廊下を歩いていると、
「健ちゃん」
小さな声が僕を呼んだ。
「
振り向いた先にいたのは、いとこの奈々ちゃんだった。
目が合ったのが恥ずかしくて、僕は下を向いてしまう。
「はい、これ」
奈々ちゃんが僕に何かを差し出す。
「お母さんにはナイショだよ」
いたずらっぽく奈々ちゃんが笑う。
奈々ちゃんが持っていたのは僕の大好きなヒーローがプリントされたお年玉袋だった。
◇ ◇ ◇
ふすまの向こうの部屋では、みんなが楽しそうにテレビを見ている。
時々わあっと笑い声。
僕は部屋には戻らずに、そっと玄関から抜け出した。
いつも行っているおもちゃ屋さん。
あそこは、お正月からやっているはずだ。
奈々ちゃんからもらったお年玉を握りしめて、僕は走った。
帰ってきたら、勝手にどこへ行っていたのかと怒られた。
だけど、そんなの気にならないくらい僕はドキドキしていた。
ポケットの中にはお年玉で買った大事な大事なものが入っている。
それは誰にも気付かれなかったみたいだ。
「外に行くなら言ってくれれば一緒に行ったのに」
奈々ちゃんが僕に言った。
いつもなら嬉しい言葉だけど、今日はダメだったんだ。
◇ ◇ ◇
とうとう帰る日の朝。
僕はポケットの中を確かめる。
目の前には一人でいる奈々ちゃんの後ろ姿。
「奈々ちゃん!」
「健ちゃん」
奈々ちゃんが振り向く。
「今度会うときは夏休みかな」
なんでもないことのように奈々ちゃんは言うけど、僕はそんなに会えないのは嫌なんだ。
でも、そんなことは言えないから。
「あのね、これ」
ポケットの中に手を突っ込んだ。
こつんと指に当たる感触。
僕はそれを取り出して、奈々ちゃんの目の前に差し出した。
僕の掌の上には小さな指輪。
「私にくれるの?」
僕はこくこくと頷く。
なんだか喉が渇いて声が出ない。
「ありがとう」
奈々ちゃんは嬉しそうに笑った。
奈々ちゃんのくれたお年玉で買ったおもちゃの指輪を、奈々ちゃんは嬉しそうに指にはめてくれた。
◇ ◇ ◇
「……そんなこともあったよね」
奈々ちゃんが、僕の前であの時と同じように笑う。
「その話は恥ずかしいって!」
「あの時の健ちゃん、可愛かったなあ」
嬉しそうに笑う奈々ちゃんの手には、古ぼけた小さなおもちゃの指輪。
「健ちゃんてば、こっちを渡すときに『これはお年玉で買ったんじゃないから!』なんて言うんだもん。大事な場面なのに笑っちゃった」
奈々ちゃんが幸せそうに目を細めて左手を見る。
その薬指には、僕とお揃いの指輪が光っている。
僕のお年玉 青樹空良 @aoki-akira
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます