第30話 お買い物帰りに忍び寄る怪しい影?



その後も俺たちは、順々に買い物を済ませていった。


間に昼ご飯を済ませ、さらに続行する。


冷蔵庫や洗濯機はもちろん、アイロンや湯沸かし器などといった小物まで。


見始めたらキリがない。


そして、佐久間さんは気持ちいいくらいに即断してしまう。


その経済力からくる潔さに、だんだん俺の方が乗せられてきて、


「今日で一気にまとめ買いしちゃうか?」


危ない高揚感から、こんなことを発するが、彼女の方が首を横に振った。


「んー、とりあえず必要なものは揃えたから、あとは追々だね」

「なんだ、急に冷静だな?」

「だって翔くんと、こうやってお出かけできるんだもの。お金はともかく、足りないものをわざと残してでも、ちゃんと計画的に節約しなきゃ!」


眼鏡をかけた姿で、計画的とか節約と言うと、一見まともに聞こえるが、その対象は俺との予定というのだから、ズレている。


眼鏡も、サイズが合わないのかズレている。


さっきから何度も、ぐいっとツルを押し上げるのを繰り返していた。


「……眼鏡だけでも買ったら?」

「いいよ、ちょっとズレてるくらいが可愛いんだって。抜け感って奴だよ、可愛いって難しいよね」

「そんな常識みたいに言われても。それ、また例のサイトからの情報だろ?」

「な、なんで分かるの!? エスパー!?」

「そんな能力はないって。佐久間さんが分かりやすいだけだよ。……まぁ、じゃあ帰ろうか」

「そうだねっ」


そう交わして、俺たちはショッピングモールを後にした。もう夕日が差すような時刻になっていた。


ターミナル駅から最寄り駅までは、約10分弱だ。

その間に夜ご飯をどうしようかと相談し、スーパーに寄ることを決め、最寄りで降り立つ。


「これ、一回、家に置きにいく?」

「いいよ、そこまでのものじゃないって」


冷蔵庫などの大型のものは、後日の宅配便を頼んだが、炊飯器など一部の商品はその場で受け取っていた。


大荷物を抱えていたが、しょうがない。


そのスーパーは、俺の家からは駅を挟んで反対にあり、帰ってから再度足を運ぶには少し億劫になる距離だ。


線路沿いを外れ、住宅地を入り込むような道を、二人でよたよたと緩い足取りで歩いていく。


「今夜は初デート記念日だし、ケーキ食べちゃわない? 寄って行こうよ、パティスリー!」


俺の数歩先、大荷物を背中の後ろで揺する佐久間さん。


人通りが少ないため、その甘ったるい内容とはうらはらに、涼やかで少しアルトな声が響き渡る。


その中に、コツコツとごくわずかだが、別の音が混じっていた。


俺は後ろを振り向くが、人の影は伸びていない。

しかし再び歩き出すと、たしかに微かながら耳に入ってくる。


それは、足音のようなもの。



いつ起きてもおかしくない話ではあったのだ、これまでも。

そして今度ばかりは、もしかすると、もしかしてしまうのかもしれない。


感じようとすると、どこからか見られている気もしてくる。


「ねぇ晩ご飯、たこ焼きにしようよ。せっかくプレートも買ったし、久々にくりくりっとやりたいんだ〜」

「……いいけどさ」


素っ気なく返しながら、俺は頭を巡らせる。


某暴露系雑誌に、居所でも嗅ぎつけられたか……? 


一瞬よぎるけれど、ただの一般人である俺ごときが気付けるくらいだから、もっと別物、プロではないのかもしれない。


だとすれば、より危険度が増す。


雑誌にリークされるくらいならまだしも、変な輩だとすればーー


スーパーの近くまできて、人目が一気に増える。


幸い、家とは別方向だ。

ここなら、ほかの人の監視の目もあるが……紛れられたら、面倒なことこの上ない。


俺はそこで、彼女に小声で言う。


「佐久間さん、これ頼んでもいいか。スーパーのカウンターにでも預けててくれ。入り口すぐにあったと思うから。

 すまん、ちょっと野暮用ができた」

「えっ、ちょっと翔くん!?」

「ほんと、すぐ戻るから。買い物が済んだら、タクシー呼んで家に帰ってろ」

「翔くんとお買い物だったのに? 夫婦みたいに、ご飯の買い出しできると思ったのに?」


駄々っ子みたいに眉を下げる姿は、たいそう愛らしいが、今は非常時だ。


彼女に、尾けられているかも、と伝えたところで不安にさせてしまうだけに終わる。


その純真さを守るためにも、ここは無言で、彼女のお願いには目を瞑るしかない。


「約束する。今度、絶対一緒に買い物するから。ケーキもまた今度、絶対だ」


真剣な眼差しで、誓う。


俺が肩を叩いて言えば、佐久間さんは寂しそうながら、ちょこんとうなずいてくれた。


そのすぐ後、俺は気配のする方へ、一気に駆け出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る