第30話 お買い物帰りに忍び寄る怪しい影?
♢
その後も俺たちは、順々に買い物を済ませていった。
間に昼ご飯を済ませ、さらに続行する。
冷蔵庫や洗濯機はもちろん、アイロンや湯沸かし器などといった小物まで。
見始めたらキリがない。
そして、佐久間さんは気持ちいいくらいに即断してしまう。
その経済力からくる潔さに、だんだん俺の方が乗せられてきて、
「今日で一気にまとめ買いしちゃうか?」
危ない高揚感から、こんなことを発するが、彼女の方が首を横に振った。
「んー、とりあえず必要なものは揃えたから、あとは追々だね」
「なんだ、急に冷静だな?」
「だって翔くんと、こうやってお出かけできるんだもの。お金はともかく、足りないものをわざと残してでも、ちゃんと計画的に節約しなきゃ!」
眼鏡をかけた姿で、計画的とか節約と言うと、一見まともに聞こえるが、その対象は俺との予定というのだから、ズレている。
眼鏡も、サイズが合わないのかズレている。
さっきから何度も、ぐいっとツルを押し上げるのを繰り返していた。
「……眼鏡だけでも買ったら?」
「いいよ、ちょっとズレてるくらいが可愛いんだって。抜け感って奴だよ、可愛いって難しいよね」
「そんな常識みたいに言われても。それ、また例のサイトからの情報だろ?」
「な、なんで分かるの!? エスパー!?」
「そんな能力はないって。佐久間さんが分かりやすいだけだよ。……まぁ、じゃあ帰ろうか」
「そうだねっ」
そう交わして、俺たちはショッピングモールを後にした。もう夕日が差すような時刻になっていた。
ターミナル駅から最寄り駅までは、約10分弱だ。
その間に夜ご飯をどうしようかと相談し、スーパーに寄ることを決め、最寄りで降り立つ。
「これ、一回、家に置きにいく?」
「いいよ、そこまでのものじゃないって」
冷蔵庫などの大型のものは、後日の宅配便を頼んだが、炊飯器など一部の商品はその場で受け取っていた。
大荷物を抱えていたが、しょうがない。
そのスーパーは、俺の家からは駅を挟んで反対にあり、帰ってから再度足を運ぶには少し億劫になる距離だ。
線路沿いを外れ、住宅地を入り込むような道を、二人でよたよたと緩い足取りで歩いていく。
「今夜は初デート記念日だし、ケーキ食べちゃわない? 寄って行こうよ、パティスリー!」
俺の数歩先、大荷物を背中の後ろで揺する佐久間さん。
人通りが少ないため、その甘ったるい内容とはうらはらに、涼やかで少しアルトな声が響き渡る。
その中に、コツコツとごくわずかだが、別の音が混じっていた。
俺は後ろを振り向くが、人の影は伸びていない。
しかし再び歩き出すと、たしかに微かながら耳に入ってくる。
それは、足音のようなもの。
いつ起きてもおかしくない話ではあったのだ、これまでも。
そして今度ばかりは、もしかすると、もしかしてしまうのかもしれない。
感じようとすると、どこからか見られている気もしてくる。
「ねぇ晩ご飯、たこ焼きにしようよ。せっかくプレートも買ったし、久々にくりくりっとやりたいんだ〜」
「……いいけどさ」
素っ気なく返しながら、俺は頭を巡らせる。
某暴露系雑誌に、居所でも嗅ぎつけられたか……?
一瞬よぎるけれど、ただの一般人である俺ごときが気付けるくらいだから、もっと別物、プロではないのかもしれない。
だとすれば、より危険度が増す。
雑誌にリークされるくらいならまだしも、変な輩だとすればーー
スーパーの近くまできて、人目が一気に増える。
幸い、家とは別方向だ。
ここなら、ほかの人の監視の目もあるが……紛れられたら、面倒なことこの上ない。
俺はそこで、彼女に小声で言う。
「佐久間さん、これ頼んでもいいか。スーパーのカウンターにでも預けててくれ。入り口すぐにあったと思うから。
すまん、ちょっと野暮用ができた」
「えっ、ちょっと翔くん!?」
「ほんと、すぐ戻るから。買い物が済んだら、タクシー呼んで家に帰ってろ」
「翔くんとお買い物だったのに? 夫婦みたいに、ご飯の買い出しできると思ったのに?」
駄々っ子みたいに眉を下げる姿は、たいそう愛らしいが、今は非常時だ。
彼女に、尾けられているかも、と伝えたところで不安にさせてしまうだけに終わる。
その純真さを守るためにも、ここは無言で、彼女のお願いには目を瞑るしかない。
「約束する。今度、絶対一緒に買い物するから。ケーキもまた今度、絶対だ」
真剣な眼差しで、誓う。
俺が肩を叩いて言えば、佐久間さんは寂しそうながら、ちょこんとうなずいてくれた。
そのすぐ後、俺は気配のする方へ、一気に駆け出した。
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