美少女アイドル（元同級生）に、生放送の謝罪会見で公開プロポーズされた件〜次の日から同じ学校に転校してきて、ぐいぐいくる〜

第2話 ホームルームで狙い撃ち！

わけのわからないスクランブルが起きたのは、その翌日のことだった。

始業式が終わり、新クラスでのはじめてのショートホームルーム。

背がとても小さいうえ、甘えた声を出すロリ風な新担任、英語の若狭先生（28）が切り出したのは、転校生の話だった。

そこまでは、別にいい。

なんとなく風の噂で、転校生がくるらしいよ〜、女の子らしいよ、くらいの朧げな情報は耳に挟んでいたし、心構えもあった。

俺は、色めき立つ男たちのように妙な期待はしない。

そんなふうにふんわりと思っていたのだが、

「入っていいよ〜」

先生がその転校生を中へと招き入れて、そのふわふわした想像は全て破壊された。

少女の一歩一歩は、まるで桜の舞う中を歩くかのようだった。

もちろん現実の背景には黒板しかないのだが、たしかに桜並木が見える。ひらひらと花びらが舞う。

俺は、いや、クラス全員が、その一挙一動に釘付けになっていた。

けれど彼女にとって、この程度の視線はないも同じらしい。

昨日テレビで見たのと同じように、どこまでも平然としていた。あまたのカメラを向けられることに比べれば、これくらいで緊張するわけもないらしい。

黒板にチョークで名前を書きつけて、こちらを振り返る。

「佐久間杏です。みなさん、今日からよろしくお願いします」

髪は、一日で黒髪に戻っていた。

長かった髪はばっさりと切られて、今は肩にもかからないほど短いところで毛先を遊ばせたショートカット。

けれど、美人を極めた彼女は、どんな髪色でも髪型でも似合ってしまうし、本人であるとすぐに分かる。

紺色のブレザーと赤のリボン、きわめてスタンダードな我が校の制服も、彼女が纏えば、それだけで特別なものに映った。

まるで今がドラマのワンシーンみたいに、輝いたものに見える。

一瞬息を呑んでいたクラスメイトたちだったが、彼女がにこりと笑うと、すぐに大フィーバーになってしまった。

名前が似ていることや、昨日の会見を見ていたからか、みんなすぐに本物だと合点したらしい。

「まじかよ、あの杏子ちゃん！？　名前もほとんど一緒やもんな！」

「まじだまじだ、やべっ写真撮りて〜ってだめだよな、だめだわ。まだ捕まりたくない、でも撮りたい、プリクラ撮ってください！！　売らないんで！」

「私、お母さんの佐久光里さんのファンなんだよねぇ！！　あぁよかったなぁ、月9の連ドラの主演で解剖医やったときのさーーーー」

狂喜乱舞の大騒ぎ、朝礼中だと言うことなんかすっかり忘れて、叫び回る。

一部、お母さまのことを語っている奴もいるが、総じてまさかすぎる転校生の来訪に興奮を隠せない様子だ。

一方、俺はといえば席に座って静観していた。いや、呆然としていた。

好き勝手に暴れるクラスメイトの間から、彼女を見つめる。

そしてここで、ようやく我が校の名物が発動した。

「てめぇら、早く座れや！！　授業中だぞ、こら！！」

図太い声だ。だが、体育教師が乗り込んできた……わけじゃない。

声の主は、さっきまで「入っていいよ〜」と幼い声音で言っていた先生と、同一人物である。

キレモードの若狭先生だ。

その凄みは、校内の誰しもから恐れられており、ヤンキーまでもが尻込みする。一説によると、元は別の町を締めていた暴走族だったとか、なんとか。

ありえないとは思うのだけれど、怒ったときに、額にしわが寄ると、急に貫禄の出るその顔は、ただの噂だと思わせない力がある。

しんと一気に教室が静まり返った。

おかげで朝らしい爽やかな時間が帰ってきたのだが、それはほんの束の間だった。

教壇のうえ、窓から入る風にさらわれた前髪を耳にかけ、転校生もとい佐久間さんはびしっと銃みたいに指を作る。

その先にいるのはどう辿っても俺で、

「私はこの学校に、湊川翔くん、君を落としにきました」

ぱん、と手銃を撃ちながら、彼女はアイドルらしいクールな顔のまま、こう言い放ったのだった。

………………はい？