第11話 山田君と火曜日 六回目~
グッドモーニング、俺。
ベッドよし! 部屋よし! 朱里いない!
世界広しと言えども、室内に義妹がいるかどうか警戒して起床する人物は俺だけなのではなかろうか。
まあいい、今日はやることがある。
あのワンコ系褐色娘のストーキングを断念させるべく、家探しをする必要に駆られているのだ。
「はいはい、コレとかわかりやすいよな。ってか、何で今まで気づかなかったんだろうか」
コンセントにはまっているC国製の電源タップの中身とか、買った覚えのないボールペンとか、本棚の上にある段ボール箱とかな。
朝ごはん食べなさい! と母親が切れてるが、今日はパスだ。
そして脳に閃く、一瞬の紫電。
あ……れ……?
「学校、休めばよくね?」
逆転の思考……まさに悪魔的発想……!
律儀に登校しては、しょぼんのアクション並みに理不尽な死にゲーをプレイさせられていたのがアホ臭くなる。
まあどうせ死ぬんだろうな、と自分を落ち着けておいて、今日は探偵よろしく部屋の調査だ。
①朱里と会わない。
②昴を家に入れない。
③月読に居留守を使う。
とにかく今日はソロプレイだ。
スマホを通話状態にし、わざとらしく咳き込みながら担任の先生に病気アピをする。仮病は切れる枚数が限られているが、強力なカードだ。存分に活用させてもらおう。
「おにいー---。入るよー!」
「駄目です。お兄ちゃんは今忙しいのです」
誓いを立てた瞬間に、根底からぶち壊される感あるよね。賽の河原かな?
ガッチャガッチャガッチャ。
うるっせえ!
ドア前で暴れるんじゃないよ、まったく。
「朱里、俺はとても大切な用事があるんだ。だから一日でいいから放置しておいてくれ」
「あー----っ、わかった! お兄、今パンツ脱いでるでしょ。ちょっとそこのところ詳しく」
「脱いでねえよ! お前の頭の中には精子でも詰まってるんか!」
「お兄専用の卵はお腹にあるよ💕」
ああ言えばこう言う子だよ、ほんとに。
待てよ……朱里はちょうどいいジャミングにならないかな。
あからさまに部屋のチェックを行うと、昴の探知網に引っかかる可能性が高い。
朱里とアホな会話をしつつ、探索をしていけばごまかせるかもしれない。
「ところで朱里、今日の朝飯は何だった?」
「んー。アジの開きとー、サラダとー……」
ゴソリゴソリ、と電源タップを抜く。
もう見るからに怪しい粗雑な造りの背面を見て、溜息をつかないようにするのに苦労した。
ドライバーを手にしてゆっくりと開ける。
ビンゴ。
YouTubeで見たことあるわ。これ盗聴器よな。
あの小娘、青春を謳歌してそうな顔して、何でこんなもん仕掛けるかね。
「ねーおにいー! 今日のパンツの色なんだけどさぁー」
「白でも青でもピンクでもいいぞ。朱里には似合うと思う」
「そうかなー。今脱いで確かめてみるね」
胃が痛い。
昔は天使のようにかわいかったのに、なんでここまで餓鬼道に堕ちたのか。
「おにい、やっぱり縞々がいいと思う!」
くっそどうでもいいわ。お前、日常の一コマでほぼほぼパンチラ狙ってるじゃねえか。ありがたみが薄いんよ。
「そうか。じゃあ今日はそれで学校に行ってくれ」
「うん、じゃあ匂いがついたのはおにいにあげるね」
いらねえから。
大体同じ洗剤使って洗濯してんじゃんよ。家族内みんなスメルは一緒だよ。
ずる、ずる……とドアの隙間からパステルブルーの下着が差し込まれてくる。
え、ちょっと怖い。
ってか、いい加減学校行け。お前とパンツで文通みたいなのする気はねえんだよ。
「おにいー! 嗅いだー?」
「……ああ、そうだな」
思考するから路頭に迷う。
全ての機能をシャットダウンして、ただひたすらに、一意専心に昴の罠を潰していこう。
「おにいー、開けるよー」
「……そうだな」
ん?
いやいや、鍵かかってるから。
流石に看過出来ずにドアを見やると、針金を手にした朱里が満面の笑顔で仁王立ちしている。
家庭内でピッキングするとか、お兄ちゃんは君の将来が心配ですよ。
「えへへーあけちゃった」
「褒めてねえよ。マジで今忙しいんだから、学校から帰って来てからにしてくれよ」
「そんなこと言って、嬉しい癖にー」
目線が、先ほど送られてきたブルーパンツを指し示している。
パンツ→俺→パンツ→俺。
気が狂いそうだが、ふと気づいた。
パンツには文字が書かれている。
【お兄の部屋のお掃除、手伝うよ】
こいつ……!
「ねえ、お兄。朱里とプロレスごっこしようよ! ドッタンバッタン大騒ぎしよう」
俺はあからさまな目配せと、意味深なセリフに棒読みで返す。
「切れちまったよ……よし、久しぶりにお兄ちゃんの威厳を見せてやろう!」
俺と朱里は無駄にドタバタと音を出しながら、怪しげな物品を部屋の外へと搬出していく。
女性の直感……というか朱里の回収作業が優秀過ぎた。
俺では到底気づかないモノですら、部屋の外へと容赦なく出していく。そして的中率は100%だった。
「あらかたバラしたし、電源も切ったか……50個近くあんぞこれ」
「陸上の子だよね、これ。以前お兄の部屋の赤外線センサーが作動してたことが何回かあったんだよね。多分家の他の場所にもあるかも」
「油断ならんな……ん? 赤外線センサー?」
あ、いけね、と朱里は吹けてない口笛を奏でる。
「おい、お前やってんな? 色々やってんだろ」
「や、やだなぁ。妹のお茶目な冗談だよぅ」
敵は一人だけではないことを再確認させてくれた。
まあいい、今回のループでは部屋の危険物を処理することに注力しよう。朱里を詰めるのはまた後にしておこうか。
ぴんぽーん。
軽快なチャイムが鳴る。
「せんぱーい! おはようございまーす!」
出たわね。
いや、マジでどうするべきかなこれ。数々の盗聴グッズの残骸を、昴に突きつけてみようか。
しらばっくれるかもしれんが、性根は既に把握済みだ。騙されはしない。
問題なのは昴の殺害率が100%なことよ。
部屋に……いや、家に入れたらアウトっぽい気がムンムンに湧いてくる。
あ、そうだ。朱里に応対してもらおう。
「朱里、頼みがある」
「ゴムつけなくてもいいよ?」
「人の話を聞け。何とか昴を追い返してくれ、時間を稼ぎたい」
んーと顎先に指を当てて考え込む朱里だったが、いいよ、とニコリ。
「まあ、いい加減私も反撃しとかないとだしね。お兄のために制服脱ぎますか」
「慣用句はきちんと使用するんだぞ。俺は隠れてるから、頼む」
「はいはーい。りょうかいでっす」
俺はクローゼットの中に体をねじ込み、息をひそめる。
玄関先で何やら騒がしい声が聞こえるが、さてどうなるか。
「お兄は渡さないから! お兄と結婚して赤ちゃん産むのは私だもん!」
「兄妹でそれはないんじゃないかな。そんなことよりも、先輩連れてきてくださいよ。いるんですよね、いますよね、いるでしょ?」
クッソこええ。
何一つ会話が噛み合ってないのもそうだが、もう死神の鎌がヴィジュアル的に見えてるようなシチュエーションがやべえよ。
やがて階段を上がる足音が二つ。
朱里ー---っ! お前ー---っ!!
誰か、誰か助けてくれ! 自衛隊でも米軍でもいい、こいつらを何とか撃退してくれ!
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