第24話 兄の来訪

◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 いつの間に眠ったのだろう。市販の風邪薬を昼食後に飲んで横になっていたら、どうもそのまま眠ってしまったらしかった。

 部屋に入る光が赤みを帯びている。上体を起こしてカーテンを閉めようとしたときに、リビングダイニングの方から声がするのに気づいた。

 ……ん? 来客?

 音を立てると起きていることに気づかれてしまう。少し様子をみようと私は耳をそばだてた。


「……君も過保護だよねえ」

「笑ってくれるな」

「まあ、そんなわけだから、一度実家に連れて帰るべきじゃないかな」


 聞き慣れた声がする。兄貴が来ているらしかった。焼き菓子の匂いがするから、差し入れを持ってきてくれたのだろう。

 しかし……実家に帰れって?

 兄貴が連れて帰りたいと言うならまだしも、神様さんが実家に帰るように勧めてくるのは違和感がある。


「……そうか」

「弓弦ちゃんは春の連休で戻るつもりでいるみたいだけど、もっと早いほうがよさそうだ」

「だが、冬場は帰るのが難しいんだよな、あそこ……」

「それで梓くんも年末年始、こっちに残っていたんだ?」

「そんなところだ」


 年末年始に帰省しなかったってなんで知っているんだろう? 私も把握していなかったのに。

 神様さんは情報端末を持っていない。持っていても兄貴と連絡を取り合うことは避ける気がする。神通力でも使ったのだろうか。


「ふぅん……まあそういうことだから、さ」


 足音が近づいてくる。まもなくドアが開けられた。


「弓弦ちゃんも考えておいてよ」


 神様さんの向こうにいる兄貴と目が合う。呆れた顔をしていた。


「どうせバレるんだから、盗み聞きなんてするな」

「タイミングを窺っていただけだよ……」


 神様さんだけでなく、どうも兄貴も私が起きていたことを察していたらしかった。

 気まずい。

 私はのそのそとリビングダイニングに向かった。


「体調はどうなんだ?」

「ちょっと喉が痛むだけ。薬飲んでいる間は痛まないし、寝てれば治ると思ってる」

「それならいいが」


 兄貴の睨みが神様さんに向けられる。神様さんは肩をすくめた。


「実家に帰るときは声をかけろ」


 短くそう告げて、兄貴は立ち上がる。大柄な男が動くとこの部屋はなかなか窮屈そうに感じられた。


「了解。なに、兄貴も一緒に帰るの?」

「それがくっついてくるなら、な」


 顎で神様さんを指し示して玄関に向かう。帰るようだ。

 神様さんは苦笑しながら頬を掻いていた。


「わかった。調整してみるよ」

「じゃ、これで」


 神様さんと兄貴は目配せをする。何を伝え合っているのか私には読み取れなかったけれど、お互いにそれで伝わっているらしかった。ケンカしないことはありがたいが、私を除け者にしてやり取りすることにはモヤモヤしてしまう。正直、面白くない。


「兄貴も風邪には気をつけてね」

「ああ。……お大事に」


 神様さんと一緒に玄関先で見送る。

 家の鍵をかけると、神様さんは私の額に手を当てた。


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