第23話 温かい朝食は至れり尽くせり

「何か体が温まるものを出そうか」

「自分でしますよ」


 立ち上がろうとした私の肩に手を置く。神様さんは私をベッドに座らせた。


「手が滑ってやけどをしたら大変だよ。君は座っていて」

「過保護じゃないですかね……」

「僕がしたいんだよ」


 そんなに具合が悪そうに見えるのだろうか。それとも――

 ここでずっと押し問答をしていても仕方がないので、私は神様さんにお任せすることにした。

 寝室を出ていく彼を見送って、私はスマホを見る。今のところ緊急性の高そうな連絡はなく、自分が関連するような大きなニュースもなさそうだ。


「弓弦ちゃん、朝食はどうする?」

「トーストが食べたいです」

「じゃあ、そっちも準備するね」

「ありがとうございます」


 風邪をひいても心細いと感じることがないのは彼のおかげだろう。一人暮らしを始めてすぐに体調を崩してしまったとき、私は強がって誰にも連絡を取れずにいた。だいぶ悪化させてしまい、様子がおかしいことに気づいて駆けつけてくれた兄貴にしこたま叱られたのを思い出す。

 うーん……黙ったままだと、また怒られるかな……

 この程度で連絡を入れるのは大袈裟のようで気が引けるのだけども、何も言わずにいるのはそれはそれでよろしくないような気がする。神様さんが私の勘は当たるのだと言っていたこともあいまって、放置しておくのは悪手ではないかと不安になった。


「神様さん」

「うん?」


 私の呼びかけに、彼はすぐにドアから顔を出した。


「やっぱり兄貴には連絡しておこうと思います。こっちに来るかもしれないですけど、相手をお願いできますか?」

「ふふ。それがいい。任せておいてよ」


 神様さんが顔を引っ込めたタイミングで、私はスマホでメッセージを書く。

 風邪で休んでいますが、居候のお世話になっているので大丈夫です――っと。こんな感じでいいか。送信。

 ポチッと画面を押してメッセージを送る。兄貴は今日も店があるだろうからいきなり訪ねてくることはないはずだが、何らかのアクションは起こすだろう。問題ないと判断すれば、返信だけだろうし。

 スマホを握ってリビングダイニングに向かう。トーストの香ばしい匂いがした。


「準備はできてるよ。そっちは終わったかい?」

「はい」


 私が席に着くなりカップに注がれた野菜スープが配膳された。まもなくトーストも並べられる。自宅でこのサービスはすごい。


「さあ、召し上がれ」

「いただきます」


 至れり尽くせりでありがたい限りだ。早く体調不良を治して通常業務に戻らねばと強く感じたのだった。

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