第22話 悪夢にうなされて

 基本的に明晰夢であるからか、あまり悪夢らしい悪夢に遭遇することはない。だが、さすがに今回はヤバかった。


「――助けに来たよ、弓弦ちゃん」


 差し伸べられたその手を掴んで、私は引っ張り上げられた。

 夢が終わる。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「おはよう、弓弦ちゃん」


 部屋はまだ薄暗い。声を掛けてくれた神様さんは私の左手を自身の両手で包み込んでくれていた。とても温かくて心地がいい。


「神様さん」

「うなされていたね」

「怖い夢でした」

「そう」


 穏やかな声に安堵する。

 よかった、ここは現実だ。

 現実ではあるけれど、現実感は薄めな私の世界。自称神様な怪異と同居している現状が私の日常。向き合うことを避けてしまった結果がこれである。


「……詳細を聞かないんですね」

「聞いてしまったら、君の記憶に残ってしまう。放っておいたほうがいいんだよ、ああいうのは」


 確かにそういうものかもしれない。

 よくよく考えたら、両親も兄貴も私がうなされていてもなだめるだけで、詳細を聞こうとしなかった。だから自然と忘れられたのだろう。

 私はゆっくりと体を起こす。


「神様さんが助けてくれました」

「僕は君の手を握っただけだよ。勝手に触れてしまったことは許してほしいな」


 にこっと微笑まれるとより安心する。いつから彼は私の心を占有するようになったのだろう。

 これはよくない兆候だ。また兄貴に怒られてしまう。


「今日は代休だよね。明日からの三連休も暦どおりにお休みかい?」

「ええ、呼び出しがなければ」


 この調子だと呼び出しはないだろう。現状、私の体調が悪いので、もし指名されてもほかの人に代わってもらうつもりだ。


「しっかり休んで、風邪は治そうね。梓くんに報告しなくて良いの?」

「市販薬があるから大丈夫ですよ。月曜日までに回復しなかったら、そのときは、ね」


 風邪薬の在庫があることは確認してある。慌てて買いに行かずとも足りるだろう。


「悪化させたら僕も怒られてしまうよ」

「流行り病じゃないと思いますよ」

「じゃあ、過労かねえ」


 神様さんは苦笑を浮かべて、ゆっくりと立ち上がった。疲れが強めに出ているだけで、熱もなく会話もできるから平気だろうと判断したに違いない。

 もう悪夢の内容は朧げになっていた。


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