第21話 甘酒

 眠る前に、甘酒をひと口。彼が私の兄貴から教わったといううちの実家の味を再現した甘酒は、確かに実家の味を思い起こさせたものの、なんとなく違う味に感じられた。


「そっかあ……鍋の都合かな?」


 習ったとおりに作ったはずなんだけどなと、彼は不思議そうにしている。


「材料も実家のものなんですよね」

「梓くんはそう言っていたよ。管理方法も間違えていないはず」

「だとしたら、鍋かもしれないですね」


 とはいえ、一人暮らしをするようになってからは久しい味である。兄貴が彼に教えた理由はよくわからないが、ありがたくは思えた。

 なお、私が甘酒を作れないのは、料理の腕が壊滅的だからである。


「……これで少し風邪がよくなるといいのだけど」

「ひきはじめが肝心ですからね。心身ともにちゃんと温まってからきちんと休みますよ」

「それがいいと思う。僕の神通力があっても、風邪をひくときはひいてしまうからね。悪化させないようにすることくらいはできるかもしれないけどさ」


 彼はしょんぼりとしている。心配性だなあ。


「神様さんの力を借りなくても大丈夫ですよ。私、体力には自信があるんですから」

「それは……うん、そうかもしれないけど、油断は禁物だよ」


 彼が迷いながらも頷いたのを見て、何を想像したのかすぐにわかった。体力があるのは若さのおかげであり、秋から始めたジョギングの効果もあるはずだ。


「わかってますって」


 甘酒を飲み干してシンクに下げる。片付けは明日でいいやと思って置いたら、ささっと神様さんが洗い始めた。声をかけることも私にお小言をぶつけることもなくそうするのは、それが一番早く片付くからだろう。


「置いておけば私がやったのに」

「君はすぐに溜め込んでしまうから、この方がいいんだよ」

「いつもありがとう」

「どういたしまして」


 彼が私に手を差し伸べる。反射的に握れば、奥の寝室に案内された。


「ほら、ちゃんと暖かくして寝るんだよ」

「うちの母でもここまで過保護じゃなかったですよ」

「体調が悪いときくらいは甘えていいんだよ」

「そこまで弱ってないですって」


 私はベッドに入りながら笑い飛ばしたが、神様さんはずっと心配そうな顔のままだ。


「……君の勘はよく当たる。眠ったほうがいい」

「わかりました。おやすみなさい」


 神様さんを不安にさせたくはない。私はそっと目を閉じる。眠りはすぐに訪れた。


《終わり》


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