第16話 あと、もうちょっと。

「君から認識されなくなった時がおそらく僕の消滅の時だろうからね。君を満足させることができるように頑張らなくっちゃいけないんだ」

「……ちゃんと気持ちいいですけど」

「僕にして欲しいことがあったら、言ってくれていいんだよ? もっと甘えてほしいな」

「別に何も求めていないんですが」


 必要がなさそうなのにちゃんと避妊具もつけてくれるし、気遣ってくれるのもよくわかっている。私が主導権を握りたいときは好きにさせてくれるし、申し分ないのだが。


「そんなに不安にさせるようなことをしていました、私?」


 いつものように濃密な時間を過ごしていたと思えていたのだが。私だけだったのだろうか。

 神様さんは首を横に振った。


「ううん、そうじゃないよ。ただ……ああ、日付が変わったみたいだね」


 スマホの画面が光る。あけおめメッセージの着信を知らせたのだろう。画面が光れば自然と時刻も目に入るので、日付が変わったことに気づいたらしかった。


「あけましておめでとうございます……?」

「うん、あけましておめでとう、だね」


 神様さんは笑った。ちょっと困ったような表情。


「神様さんも、もう少しわがままを言ってくれてもいいんですよ?」

「じゃあ、もう少し君に触れてもいいかい?」


 迷わずに返された。躊躇するかと思っていたけど、したいことは決めていたらしかった。


「いいですよ」

「ふふ、嬉しい」


 恥じらいながら返せば可愛いものなのだろうけれど、そうできないあたりが私である。事務的な返事でも彼は嬉しそうに笑うのだから、それでいいのだと思っておこう。

 深い口づけをして、呼吸のために一度離れる。私は再び口づける前に待ったをかけた。


「……これ、ひめはじめになりますかね?」

「ひめはじめは二日の夜だよ」

「ふむ……」

「明日は明日ですればいいさ」

「いや、そんなに元気はないかと」

「僕がその気にさせてあげるから、大丈夫」

「それ、大丈夫じゃないです」

「じゃあ、無理させないようにしないとね」


 そう告げながら笑った神様さんからは色気がいつも以上に増していてクラクラしてしまう。彼を受け入れてしまうまで、あと、もうちょっと。


《終わり》

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