カウントダウン
第15話 カウントダウン
推しているアイドルのカウントダウンコンサートの配信があったのに、今年は買うのをやめてしまった。毎年の恒例だったはずだがそういう気にならなかったのは、間違いなく私の隣で寝転んでいる彼のせいだ。
「……どうかしたのかい?」
「あー、いえ」
もうすぐ年が変わる。
去年の今頃は婚約者でもあった彼氏がいたが、仕事の都合で一緒には過ごさなかった。
たぶん、年越しを誰かと一緒に迎えたのは高校三年生のときだけのような気がする。一緒に新年までのカウントダウンをしながら、初詣に行ったあの日だけ。
大学時代はバイトがあるから早寝していたし、社会人になってからはリリース後の待機で自宅にいることが多かった。そもそも外に出て人と会えるような情勢でもなかったから、仕事を引き受けてしまったわけだが。
誰かと過ごさない代わりに、お気に入りのアイドルの推しが頑張ってるカウントダウンコンサートを見るのが私自身への一年間のご褒美だったのだ。
「弓弦ちゃんは僕の顔が本当に好きだよねえ」
「そういうデザインを選んだのは神様さんじゃないですか」
「美人は三日で飽きるものだと聞いていたから心配はしていたんだけど、杞憂でよかったなあって心から思っているよ」
「なんで飽きないんでしょうね」
「別にそういう神通力を使っているわけじゃないよ」
彼――神様さんはそう返してふっと力が抜けたように笑った。
むしろ、そういう神通力を使っていると答えられたほうがずっと信憑性があるんだが。
神様さんは自称神様な怪異だ。ここに顕現する際に私の影響を受けて私好みの外見を持っている。うん。好みなのは外見であるということは強調しておきたい。
「魅了できている自信があったら、こんなに不安にならないからね」
「……不安、なんですか?」
私が尋ねると、彼は私の頬を撫でた。
「いつか君が、僕の求めに応じてくれなくなるんじゃないかって」
「まあ……いずれは応じるのは難しくなるとは思いますよ。体力的な意味で」
まだ若い自信はあるし体力も充分ではあるが、歳はとるものなのだからそのうちに難しくなるだろう。
「拒まれることが怖い」
「今でも無理なときは無理って言ってますけどね」
「そういうことじゃないよ」
神様さんは私の上にゆっくりと跨がる。見上げる私の額に口づけをして、困ったように笑った。
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