初夢
第17話 初夢
初夢は元日の夜に見た夢という説を私は採用している。だが、今回ばかりは元日になってから見た夢というものを採用したいと、ちょっと思った。
「……おはようございます」
「ふふ。いい夢は見られたかい?」
目が覚めたときに彼が隣で寝ていることに慣れた。慣れたばかりか安堵する始末である。互いに裸なので昨夜のアレコレがわりとすぐに思い起こされるのだけども、それはさておき、だ。
予期せず隣にいればビンタの一発をおみまいするところではあれど、ちゃんと寝るまでのことは覚えているので照れ臭く感じる程度だ。
「初めて一富士二鷹三茄子でしたよ」
「四扇五煙草六座頭は?」
「あー、出たかも知れませんけど、そこまでは覚えていないですね」
「ふふ、そっかあ、残念」
彼はそう応えてふにゃりと笑った。まだ寝ぼけている感じだ。
「神様さんがなんかしたんですか?」
彼こと、神様さんは怪異なので何かしらの奇跡を起こすことができる。その影響範囲は未知数。あまり刺激するものではない。
彼は頭を振った。
「別に、神通力は使っていないさ。試す必要もないし」
「まあ、初夢って今夜見るものですしねえ」
「うん」
今年はいい一年になるだろうか。少なくとも散々だった去年よりはマシになると信じたい。
「でも、僕以外の何かが君に働きかけた可能性はあるよねえ」
「新年早々不吉なことを言わないでほしいんですが」
「君を欲しがるのは僕だけじゃない。こうして僕がそばにいることが多いから弓弦ちゃんは忘れてしまっているかもしれないけど、君はそういう存在だから」
神様さんはそう告げて、私の頭を撫でた。
「それ、私は納得していないですけど」
どういうわけか、兄貴も神様さんと同意見らしい。私には実感がないが。
「僕を頼ってくれている間は僕が君を専有するから、今はそれでいいんじゃないかな」
「……保留とします」
これ以上は考えるのはやめておこう。あまり突っ込むと後戻りできそうにない。私はごく普通の日常に身を置きたいのだ。
「今日は何をして過ごすの?」
「システムダウンしないように神頼みです」
「あー……そうだね。僕も祈ることにするよ」
「今日が無事に過ぎれば、明日は当番から外れるので」
「うんうん。じゃあ、今日は自宅待機で」
システムエンジニアとしての仕事もしっかりと覚えられてしまった。在宅ワークの効果もあるのだろう。
私はスマホの画面で現在時刻を確認すると、ベッドからおりたのだった。
新しい一年がこうして始まる。
《終わり》
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