煩悩のかたまり

第12話 ただいま反省中

 今年を振り返ると、煩悩にまみれた一年だったと思う。

 私の正面には、私好みの大変美麗な顔がある。その顔が不思議そうに小首を傾げた。


「どうしたのかな、僕の顔をじっと見つめて」

「いえ、深く反省していただけなので」

「後悔じゃなくてよかったなあ」

「私が何を考えていたのかお見通しってわけですか」


 彼は自称神様な怪異である。いろいろと事情があって、私好みの外見を得てここに顕現している。

 そんな人ならざる者なので、心を読むくらいの芸当はあっても不思議ではないのだが。

 ため息混じりに私が返せば、彼はあっけらかんと笑った。


「弓弦ちゃんが考えていることなんて神通力を使わずともすぐにわかるよ」

「ん?」


 聞き捨てならない発言である。私が彼を見やれば、彼はふっと口の端を上げた。


「僕の顔をじっと見つめて百面相をしているときは、間違いなく僕のことを考えてる」

「って、私、そんなに表情をコロコロ変えていないと思いますけど?」


 仕事ではポーカーフェイスなのだ。何考えているかわからなくて怖いと評されたこともある。それは多分、疲れ目でしんどいせいだと思うのだけども。

 不本意すぎて、家に持ち帰っていた報告業務の手を止める。


「そう? 自分の顔、見た方がいいんじゃない?」


 そう微笑まれながら返されると、それ以上は何も言えなかった。

 えー、百面相、してるの?

 でも、よく考えればゲームで推し活に励んでいる時の自分の表情のゆるみっぷりを思うに、似た系統の存在である神様さんを見て表情筋がゆるむのはわからなくもない。認めたくはないが。

 私は話を切り上げて、ノートパソコンの画面に向かう。

 瑕疵期間が過ぎていないのでまだなんとも言えないが、納品したアプリは元気に動いているらしい。ここまでの報告書をまとめて提出してしまえば、今年の主なお仕事はおしまいである。

 なお、今日は代休であり、明日が納会で出社せねばならない。そういうの、去年までみたいにオンラインで済ませばいいのに。

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