第11話 うさぎって。
「弓弦ちゃんにうさぎのパジャマを贈った人はなかなかのセンスだよねえ」
「贈られたんじゃなくて当てたんですが」
「ありゃ、そうなのかい?」
「まあ、私のところに来る運命だったんでしょうけど」
このサイズのパジャマを着られるのはあのパーティに参加した人たちの中では私だけだった。正確には開始時にはそれなりにいたのだけど、バイトだなんだで先に帰ってしまった。そんな彼らが軒並み小柄で、残っていた私しか着られない状況だったのだ。
「そうだろうねえ」
神様さんがうんうんと頷く。私は首を傾げた。
「どういう意味です?」
「うさぎって性欲が強いらしいよ。君にぴったりだなって」
むせずにいられた自分を褒めてやりたい。私はグラスに口をつけて流し込む。炭酸はちょっときついけど、やり過ごせた。
「そういう言い方、ないと思います」
「そう?」
彼は楽しそうに笑っている。彼なりの冗談だったのかもしれない。
深く突っ込むと墓穴を掘ることになりそうなので、私はスープを飲むことにした。クリームスープではなく、野菜たっぷりのトマトスープだ。にんにくも入っているようで、思ったよりも味が濃い。体が温まる。
「――来年はもっといろいろな場所に一緒に行きたいなあ」
「そういう願望、神様さんにもあったんですね」
「もう少し力が安定しないと厳しいんだけどね、でも、僕は君との思い出がもっとほしいんだ」
そう返す神様さんの顔は少し寂しげに見えた。
「また、遠回しに消えるみたいな言い方を……」
「人間の寿命は僕らよりも短いからねえ」
「あ、消えるのは私の方でしたか」
確かに、自称神様である怪異たる彼と比べたら、人間の寿命はあっという間のような気がする。
「この平穏な日々も捨てがたいけれどね、別の刺激も欲しいじゃない?」
「まあ、そのうちに実家には来てもらいますよ。挨拶がどうという話じゃなくて、あなたの正体を見定めてもらわないと」
「ふぅん? 正体がわかったら、いよいよ離れられなくなるんじゃないかい?」
「封印しやすくもなりますし」
「そういう方向かあ」
神様さんは微苦笑を浮かべた。
「手元のカードは増やしておかないと。年明けたら、神様さんが居着くようになって一年を迎えるのもすぐですからね」
「僕を飼い慣らす方向に舵を切るつもりだったとは……」
「共存を続けるためですよ」
「ふふ、それはそれで楽しそうだからいいや」
そう応えて、彼はグラスのお酒を飲む。敵わないだろうとでも考えているのか余裕のある様子だ。
「今後もよろしく頼むよ」
「こちらこそ……?」
何を企んでいるのだろう。
他愛のない会話を楽しんで、夜は更けていく。
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