第10話 うさぎの着ぐるみパジャマ


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ふふ。似合うねえ」


 着替え用に置いてあったのはふわふわもこもこの着ぐるみみたいなうさぎのパジャマだった。なお、これを着ると料理はできない。大学時代のクリスマスパーティで当てたビンゴの景品だ。


「ってか、これ、どこにあったんです?」

「クローゼットの奥の箱の中」

「なんでそんなところを探しているんですか……」

「弓弦ちゃんが寒そうだったからだよ。僕が温めるのにも限界があるでしょう?」

「温め合っているときは何も着ていないじゃないですか……」


 私が指摘すると神様さんは目を瞬かせた。意外そうな顔。


「毎晩は無理だって君がいうから」

「まあ……それはそうですけど」


 疲れているんだろうな、と思って私は頭を掻いた。


「スープを出そうか。バケットサンドは好きなのを選んで。ローストチキンはあともうちょっとだよ」

「了解。……二人分はさすがに華やかねえ」


 去年までは元カレがいたわけだが、仕事の都合で会うことが叶わなかった。そんな私を兄貴は不憫に思ったらしく、クリスマス用のセットを運んできたわけだが、それはもちろん一人前だったわけで。

 テーブルの上に所狭しと皿が並ぶのはなかなかいいものだ。よく見たらグラスも置いてある。兄貴からお酒の許可がおりていることを思い出した。


「飲み会の方がもっと賑やかだったんじゃない?」

「もう静かに過ごしたいですよ……」


 野菜たっぷりのバゲットサンドを選んで自分の席に置かれたお皿に移す。全体的に野菜が多めなのは兄貴のお店の趣味であろう。おかげで私は風邪や流行病とは縁がない。


「明日はお休みかい?」

「呼び出しの可能性はゼロじゃないのが悲しいですけど、一応お休みです」

「なら、ゆっくりできるねえ」


 彼の表情に色気を感じて、心音が跳ねる。疲れがピークのような気がする。


「お酒を飲んで、イチャイチャしよう」

「このうさぎパジャマはイチャイチャ回避用だったんでは?」

「毛皮を剥ぐのもいいかなあって」


 脱がされるところを想像してそういう気になってしまうんだから、今夜はアリの日のようだ。不本意だけど。


「ふふ。まずはご飯にしようね。弓弦ちゃん」


 チキンを突っ込んでいたオーブンレンジが出来上がりを教えてくれる。神様さんは手際良くチキンを取り出してお皿に盛り付けた。


「さあ、召し上がれ」

「いただきます」


 ローストチキンも熱々で美味しそうだ。

 自分の席に着く前に神様さんがグラスにお酒を注いでくれる。冷蔵庫から出てきたシャンパンらしい薄い黄色の液体はシュワシュワしている。

 席に着いた神様さんとグラスを合わせて早速ひと口いただく。フルーティであるけれど、甘さはあまりない。アルコールは想像していたより強かった。

 神様さんはじっと私を見つめている。


「酔わせていいって梓くんが言ってたよ」

「それは嘘じゃないですか?」

「僕は意図的に嘘はつけないよ」

「……マジか」


 何を思ってそんな許可を出したのだろう。酔って寝たら何事もなく一晩明かせられるからだろうか。


「ふふ。ちゃんと起きていて。弓弦ちゃんを気持ちよくさせたいから」

「どうでしょうかね、疲れているんで」


 期待していることを悟られたくない。私はバケットサンドを口に突っ込んだ。ほんと、ここのバケットサンドは美味だな。

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