第6話 新しい彼氏とクリスマスの予定

「――くりすますが近いねえ?」

「神様さんもクリスマスは楽しむんですか?」

「宗教的な部分はさておき、行事としては興味深いよね。君の望む物を与えることはやぶさかではないさ」

「欲しいものは特にないですね……強いていうなら、年末年始の確実な休暇がほしいです」

「あー……それは切実な願いだねえ」


 神様さんの同情する声が私に刺さる。仕事が忙しく、休日出勤も続いていた。今日はようやく手に入れた代休である。


「納品は二十四日だっけ?」

「うん……瑕疵期間があるから年末年始も待機なんだよね……在宅ではあるんだけど」

「お疲れ様です……」


 さすがに私の仕事への理解が進んでいるようだ。わがままや文句を言わないあたり、状況が伝わっているのだろう。


「納品のあとの打ち上げは参加しないで帰るつもりですよ。新しい彼氏とクリスマスは一緒に過ごしたいってことにしたら許可出ました」

「新しい彼氏? ん?」


 神様さんの動揺する声。私が彼を見やれば、神様さんは困惑顔をしていた。

 私は彼に人差し指を向ける。


「新しい彼氏、です」

「!」


 表情がぱあっと明るくなった。自覚なかったのか。てっきり自惚れた反応をしてくると思っていたのに意外だ。


「神様さんと同居していることは明かしていないんですけど、春先に別れた話はまことしやかに広まってまして。ならば仕事はし放題だよねとか、新しい恋人は必要ないかと詮索されたりとか鬱陶しかったので、新しい彼氏ができたことにしたんですよ、この前の飲み会の時に」 


 特に伝える必要はないと思っていたし、隠していてもバレるだろうと説明を怠ってきたがせっかくである。ざっと話せば、神様さんは私の手を取った。


「ただの居候じゃなくて彼氏でいいのかい?」

「彼氏になってほしいわけじゃないですよ。知人に会った時に説明が面倒だから、そういうことにしただけで」

「嬉しいなあ」

「話、聞いてます?」


 むしろ、ただの居候という自覚があったことに驚きであるのだが、さておき。

 すごく嬉しそうにされるとちょっと気まずい。怪異に不用意に名前を与えてはならないのは鉄則だが、役割を与えるのもよろしくはない。神様さんを彼氏にしてしまったら、いよいよ離れられなくなる。


「打ち上げを蹴って僕のところに帰ってきてくれるなんて、愛されてるよねえ」

「帰る口実に使っただけで、神様さんのためじゃないですよ」

「僕としては一分一秒でも君のそばから離れていたくはないからね。帰ってくるって約束してくれるだけでもすごく嬉しいんだよ」


 そんなにテンションが上がるとは。私は冷や汗を流す。


「……絡め取られている気がします」

「君が自分で選んだんだよ?」


 ニコニコする顔が近い。


「失策だったと後悔しています」

「またお兄さんに怒られてしまうかい?」

「お小言は喰らうでしょうけど、そこは、まあ、それこそ自分で選んだので」

「ふふ。えらいえらい。僕との付き合い方、上手になったねえ」


 そう返して、神様さんは私の頭を撫でる。その手は温かくてとても優しかった。


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