師走なのに暑すぎる

第5話 師走なのに暑すぎる

 異常気象もいいところだと思う。暑すぎはしないか、師走だっていうのに。

 今年何度目になるのかわからない夏日の記録をスマホで確認しながら私は大きく息を吐く。


「ため息はよくないよ、弓弦ちゃん。幸せが逃げてしまう」

「クリスマスも迫ってるってのに暑すぎるんですよ……」

「暖房を入れなくていいだけ節約できていると考えればいいんじゃない?」

「冷房費が馬鹿にならないんですよ」


 そう返せば、正面に座る彼は肩をすくめた。


「まあ、そうだね。もう少し涼しくなってくれないと同衾を許してもらえないから、人肌が恋しくなる程度にはなってほしいよね」

「そっちに話を振るのはどうかと思いますよ」

「僕が顕現したのは、君の欲求不満を解消するためだからねえ」


 彼、こと、神様さんは冗談めかして告げる。

 神様さんは人間ではない。私の潜在的な力によって呼び出されてしまった怪異である。


「きっかけはそうだと認識していますけど、別にそこは主目的じゃないでしょうに」

「でも、好きでしょ?」

「……む」


 自身の顔を指差して妖しく微笑まれると何にも言えなくなってしまった。行為はとにかく、私は彼の顔も容姿も好いている。そこは否定できない。


「顔、赤くなってるけど、部屋が暑いのかな? 窓は開いているはずだよね」

「そうですね。外気温、二十度超えてるって話ですし」


 そう返事をして、私は顔をそむけた。

 すっかり彼はこの家の住人になってしまっている。彼がいることで助かることはあるものの、このままでいいのかどうかは悩ましいところだ。他の怪異を退けていることはこれまでの経験から自明ではあるが、一方で彼は私の寿命を消費している。私に怪異を退けるだけの能力や技術があればお帰りいただけるのだけども。


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