第9話 不気味な家

サレは何処から来たのかも、誰の子どもなのかも

分からない。

このままであれば孤児院に行く事になるのだった。


サレが見つかった周辺やこの街全体を捜索しても

やはり行方不明の子どもや不審人物は見つから

なかった……が………、


ただ一軒だけ不気味な家があった。


「子どもの発見場所から4キロほど離れた

場所にある立派な家なんだが……」


ミーシェの上司はそう伝えてきた。


「誰もいないみたいなんだ。

何度訪ねてみても誰も出てこない。

それで持ち主の調査と周辺の聞き込みを

したんだが…………」


「何か分かったんですか?」


「持ち主は政府高官であまり詳しくは話を

聞けなかった。夫婦は今別居していてその家は

今妻だけが住んでいるそうなのだが、

時折実家に行くこともあるらしくて、

家にいないという事は実家に行っているん

だろうと言われたそうだ。」


「では実家の方に連絡を?」


「それがその夫が妻の実家とは連絡を取りたく

ないと言われ、連絡先も何も教えてもらえなくて

今調べているところだ。」


「そうなんですか………その家に子どもは…?」


「その夫に聞いたところでは夫婦の子どもは

一人でその長男は寄宿舎に入っていて何の

問題もないそうだ。今回見つかった歳の子に

何の心当たりもないとのことだった。」


「4キロでしたら子どもでも歩けなくはないですが、あの子が果たしてそんな距離を歩けた

でしょうか……それに夫婦の子ではないなら

あの子がその家にいた可能性は何かあるの

でしょうか?」


「いやあ、ないよ。ただ一軒変わった家が

あったというだけで、それだけだ。

だけど………」


「何か引っ掛かりますか?」


「その夫は5年ほど前に家を出たきり一度も

戻っていないらしい。だからその5年の間

その家で何があったのかは分からない。」


「……………………え、まさか……?」


「全てはそこの奥さんに会って話を聞かない

事には分からない。だがその政府高官はこれ

以上家の事に介入するなと強く圧力をかけて

きたようなので、これ以上の事はもう分からない

かもしれない。」


「そうですか…………」


「という訳で例の子の素性は不明ということで

確定だ。引取先の孤児院が見つかり次第

引き取ってもらうことになる。」


ミーシェは覚悟していたけれど、とても残念そうな

悔しそうな顔をした。


「そんな顔をするな、これがこの国の決まりなんだ。」


「…………分かっています。」


しかしミーシェには一つの考えがあった。

この国では子どものいない夫婦には優先的に

養子が迎えられる制度があった。

結婚後1年間子どもができなかった場合という

条件はあるが、ミーシェはこの制度を利用したい

と考え、リノンの了解も得ていた。

後は互いの両親を説得して準備を進めていく

つもりであった。


『それにしても謎の不気味な家か………』


その話は確かにミーシェも気になった。

場所を聞き、実際に現地に行ってみた。

ベルを鳴らしてもやはり反応はなかった。

門扉の鍵は掛けられていなかったが、許可なく

中に入るわけにはいかなかった。


近隣の人達の話では5、6年前までは家族が

普通に暮していたようだった。

夫婦と一人息子の3人家族で最初は仲良さそうな

様子であったが、段々と旦那の方を見かけなく

なり、息子が寄宿舎へ入るとこの家の家族を

見かけることはほとんどなくなっていったそうだ。


「この家には今は誰もいない。」

と言う人と、

「奥さんだけは暮しているようだ。」

と言う人がいた。

月に1、2回食品の配達がされていたようで、

配達員にも確認が取れた。

配達員も奥さんしか見ていなくて、それ以外の

住人がいるようにはみえなかったらしい。

奥さんは穏やかでとても丁寧で優しい雰囲気

だったらしい。

夫の仕事が忙しくてなかなか家に帰ってこれない

という話は聞いたことがあるそうで、特に変わった

様子はなかったと答えていた。


『政府高官の夫の話では自分の意思で帰って

ないようだったが、妻の方は帰ってくる意志が

あると思っていたのだろうか?』


サレのことは抜きにしてもおかしな家である。


『もしここにナーナがいたんだとしたら………』


ここに一人で暮していた婦人が遠方から子どもを

攫ってきたとはとても思えない。

しかし人当たりの良さそうな婦人が自分の子どもを

あんな風になるように扱っていたなんて……


「考えられない、あり得ない!」


ミーシェは思わず大きな声を出してしまった。

せめて家の中を捜索できれば何か分かるか

もしれないが、今はそれは叶わず

やはり何処かからきた謎の子どものまま。


医師は元から感情表現や表情と反応が薄い子

の可能性も半分くらいはあると言うが……


『なぜだかナーナは違うと感じてしまう。

確かに全ての反応が薄いのは確かだけど、

なぜだろう?何か強い意志を感じる。

何も感じたくない、何も反応したくない

という意志を………』


ただそれをミーシェは人に上手く説明できなかった。理解を示してくれたのはリノンだけであった。

だから余計に誰かに預けるのではなく、自分達で

この子の心に触れたいと思っていた。


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