第7話 どこから?

サレはどこから来たのか?


発見から翌日以降、その捜索は開始されていたが、全く何も掴めなかった。


高級住宅街の中で子どもが行方不明になったと

なれば、普通その日の内に捜索願いが出されて

当然と思われたがその形跡は全くなかった。


その見窄らしい姿から、この近辺の子どもでは

ないだろうと見当が付けられた。

そうなると、何処か遠くから自分でやって来た

のか誰かに連れて来られたのだろうか?


自力で来るには余りにも幼く、この日は暖か

かったがまだ朝晩は寒く足も裸足である。

このようなぼろ布一枚羽織っただけで

長距離を移動できるとは考えられない。

その為何処かから連れ去られたのではないか

という案が有力となった。


しかし何処から誰がこの子を誘拐してきたの

だろうか?

政府高官や有力関係者の多いこの高級住宅街で

誘拐犯を疑って聞き込みを続けるのはとても

困難なことであった。

どの家も家族で暮していて、他所から貧相な

子どもを連れて来ればすぐにでも近所や

誰かにバレそうなものであった。


結局、行方不明になった子どもはいないかと

不審な人物を見かけなかったか等の情報を中心

に聞き込みを続けてみたが、何の情報も得られ

なかった。



サレは健康状態が良くなるまで病院でみてもらえる

こととなった。

このまま保護者が現れなければ孤児院へ

引き取られることとなる。

しかしこのような意思疎通が難しい状態で

引き渡すことは懸念された。


その為病院の看護師やミーシェとミーシェの

恋人であるリノンというミーシェと同じ歳の

女性が協力してサレに働きかけることにした。


リノンはミーシェからこの子の話を聞いた時から

とても放っておけないと感じ、積極的に関わろう

としてくれた。

かき集めた絵本を持って病院を訪れ、

たくさん、たくさん、話しかけた。


「これはね、鳥って言うのよ、これは魚、

これはね牛と馬………」


返事をしないサレにゆっくり、時間の許す限り

語りかけた。

始めは目を伏せそちらを見れなかったサレも

段々と向き合い相手と絵本を見るように

なっていった。


「さあ、じゃあ魚はどれ?」


そう問われちゃんと魚を指で指すようにも

なった。

言葉をきちんと理解している証拠であった。

ミーシェとリノンと看護師とで協力しあって

接する内に一週間も経たない間に同意の時は

首を縦に振れるようになった。

否定の首振りは中々伝わらなかったが、

目を伏せじっとすることでなんとなく意思は

感じ取れた。


声を出せるように発声の見本もよく見せた。

少しずつ吐く息を震わせられるようになり、

二週間程で「あ、ああ、はあ。」と

音を出せるようになってきた。


ミーシェとリノンはとても喜んだが、同時に

とても複雑な気持ちになった。

年配の医者は「そうだったか……」とため息を

ついた。


「どうも生まれ付きの問題だけではないのかも

しれない。

余りにもちゃんと養育されず放置されていたか、

もしくはまさか意図的にそれらができないように

育てられていたのか……………」


二人は衝撃を受けた。

厳しい環境で育てられている子どもの話は時折

聞くことがあるが、意図的に言葉を話さない

ように、自分の意思を伝えないようにするなんて

考えられなかった。

それらができないことは養育者にとって何の

利益もないことだと思われたからだ。

過酷な環境の子は早くに稼がされるため

むしろ口達者で計算高いイメージであった。


サレには虐待の跡がなかった。

(激しい暴力の跡)

なぜこのような事態になってしまったのか誰にも

さっぱり分からなかった。

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