第5話 扉の向こう

階段を降りた先に玄関があり外へと出られる

扉があった。

サレは記憶の限り外を知らなかった。

扉は週に一度食料の配達員がやって来る時に

開けられ、ディアがそこでやり取りをしている

ことを知っていた。


『あそこを開ければ………』


どうなるのだろう?

その先はさっぱりと想像ができない。

しかしサレは好き好んでこの場所にいたわけでは

なかった。

自分の部屋からは空しか見えず、夜に月が見える

以外何の変化もない。

リビングからは外の草木が少し見えたが

それらをじっと眺めることは許されなかった。


サレはしばらくじっと考えた後、外へ出る

ことにした。

階段を降り、ディアの動かぬ身体を避けて

サレは玄関の扉を開けた。

見ていたままの動作でそれは簡単に開いたのだった。


そしてサレは初めて外の世界に触れた。

春になったばかりの季節でその日は殊更晴れ渡り

陽気であった。

裸足でボロボロの布のような服を纏ったサレは

庭を見渡した後、そのまま真っ直ぐ敷地の外に

出る為の門扉に辿り着いた。


内側から錠がされていたが、それを外すのは

さほど難しくなく、少しの試行で外すことが

できた。

サレはその場から急いで去りたかったのだろうか、

門扉を開けるとそのまま脇目もふらずどんどんと

歩いていったのだった。


どんどん進むと10m程は幅のある川があった

生まれて初めて見る川であった。

入っても大丈夫なのか判断がつかなかったが

少し川上を見上げれば、橋がかけてあり

そこを馬車が走っていた。

(ガソリン車はまだそれほど普及しておらず

馬車が多く利用されていた。)


『あれを渡ればいいのか……』


サレはわざわざ掛けられているものがあるのなら

それを使うのが道理だと考えるくらいの理解力は

持っていた。

橋を渡りさらに進む。

足はそれほど強くなく、足の裏はすっかり

擦り剥けていた。

痛みは感じるが痛みを感じることを嫌っていた

ので完全に痛みから意識を離していた。

それでも痛み、疲れ、空腹の為にサレはもう

進めなくなってしまった。

倒れる前にうずくまる。

周りの景色を眺める。


『ああ、外はこんな風になっていたのか。』


特に喜びも感動も無かった。

知らなかったことを知った。

ただそれだけのことである。

それが何になるのか、考える意味もない。

サレは空を見上げた。

そこだけは部屋から見えたものと同じであった。

段々意識がぼやけてくる………

そんな時に


「どうしたんだい君!?この辺の子なのかい!?」


そんな声が聞こえてきた。

サレにとっては初めて聞くディア以外の声であった。




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