#3
翌朝、スマホのアラーム音で目が覚める。すぐさま反応し音を止めると素早く起き上がった。すると母親が既に仕事の準備をしている姿が見える。
「おはよ、今日早いんだっけ?」
「そ、もう行くからね」
「あんま無理すんなよ……」
「それはこっちの台詞、仕事は私に任せて学校とか行った方が良いって言ってるのに」
話しをしながらマイクは朝の支度を始めて行く。
「いやいや、ずっと母さんのために働いて来てんだから今更他の道は考えられねぇよ」
安いパンを朝食として齧りながら言った。
「あと俺、今日面接三つあるから」
もっと給与の高い仕事を探しているのだ。
「またぁ? 仮設住宅住みを雇ってくれる所あるかな?」
「今の給料少なすぎるからさ、受かるまで続けるしかないのよ」
「仕方ないなぁ、でも本当に無理はしないでね?」
「分かってるって、絶対楽させてやるから」
「ん、じゃあ面接まで家の事よろしくね」
そこまで話をして母親は仕事に向かった。マイクはまだ時間があるので家事を行う事にするのだった。
朝食を済ませた後、歯磨きをし服を着替える。そのまま家事を行った。
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仮設住宅に水道はあるが洗濯機は共用のため一度外に出てそこまで向かう。その道中、洗濯物を抱えながらマイクは仮設住宅の様子をいつものように眺めていた。
「(相変わらずだな……)」
仮設住宅のある土地には人が溢れていた。その殆どが少し汚れた身なりをしている。
並んだ後、洗濯機の順番がやってきたためマイクは洗濯物を詰めてからボロい椅子に座り人が溢れるこの土地を眺めていた。すると隣の椅子に座って来たおじさんが話しかけて来る。
「もっと静かな場所で暮らしたいもんだな、兄ちゃんよ」
「そうっすよね……」
「マトモな仕事を探そうにも雇ってもらえない条件が揃っちまってるからな」
するとおじさんは難民がマトモな職に就けない理由について語り出した。
「汚染でかなりの企業がダメージ受けてる、人件費も余裕無くなっちまった上に俺たち難民は安定しないからな」
その言葉にマイクは返す。
「仮設住宅は汚染区域に近いから……いつビヨンドやダーティアが襲撃して来て死んだり汚染されたりするか分からない……」
「その通りだよ」
それこそが汚染区域からの難民がマトモに働けない理由。
「企業にとっても仕方ない事だろうからな、政府から安い仕事与えられてるだけ感謝するべきなんだろうが……」
その事実は分かっている、マイクも仕事が一つもないよりはマシだと気付いているのだ。しかしそれでは到底以前までの幸せは取り戻せない。
「でもそれじゃ俺、納得できないっすわ……」
本来ならもっと幸せになって良いはずだった、しかし他者による妨害のせいでそれが奪われるなどあってはならないと考えるマイクだったのだ。
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そのまま午後は三つの企業へ面接に行った。一つ目は新都市アストラルを始めとし他の都市でも一線で活躍する販売業の支社。
「う〜ん、ちょっと難しいですかねぇ……」
「何とかならないっすか……?」
「店頭で販売のアルバイトって形なら何とか雇えるかも知れないけど……」
「でもそれじゃフルタイムでも今の給料と対して変わんないんすよ、それに時給じゃいっすか……」
「いきなり正社員で雇うのはこちらにもリスクがありますからねぇ……」
終始申し訳なさそうな態度で断られてしまった。
続いて二社目だ。
「正社員ってのは厳しいね〜」
母の家事などの負担を減らすためにもなるべく午後から働ける環境がよかったので飲食店も考慮していた。しかし正社員というのは断られてしまう。
「アルバイトから始めるじゃダメなの?」
「前の所でも言いましたけど時給だとあんま稼げないじゃないすか、家事も手伝わなきゃいけないからその分の時間出れないのを考えると時給より月給決まってる方が安定して働けるんです」
必死に説得して何とか雇ってもらえないか懇願する。しかし現実は甘くない、鋭く厳しいものを突き付けて来た。
「あのね~甘く見ちゃいかんよ、こちとら即戦力かつ今後も長く付き合っていける人材を求めてるからね」
「長く働くつもりですけど……」
「だって君アレでしょ、汚染区域からの難民なんだよね? それじゃウチはねぇ……」
やはり難民は命が安定しないと思われている。確かに年々ゲートが拓く頻度は増えているしその殆どが仮設住宅の近くだ。しかしだからと言ってそのような言い方は配慮に欠けていると思ってしまう。
「何すかその言い方……」
「いや、申し訳ないけどそこまで言わないと君引き下がりそうにないからさ」
「分かりました、もう結構です……」
こんな言い方をする人と一緒に働くのが嫌になりマイクはその場を後にした。
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本日最後、三社目は派遣会社の派遣元だ。少々気難しそうな男性が面接担当をしてくれた。
質問内容にマイクは答えていく。
「どうして派遣会社を希望なされたのですか?」
「えっと、御社が私の能力を見て最も合った職場を見つけてくれると思ったからです……!!」
何度も頭で復唱した言葉をいざ本番で口に出すとぎこちなくなる。
すると面接官はその言葉に反応しマイクの履歴書に一通り目を通した。
「最も合った職場ですか……」
何やら難しそうな表情をしながら続けた。
「貴方には現在の仕事である汚染区域の警備が最も合っていると思いますが」
「……え?」
放たれた言葉に一瞬思考が止まる。
「履歴書に目を通させて頂きました」
そして面接官はマイクの経歴を読みだした。
「中学の頃に自宅が汚染され難民に、そこから中卒ですぐ現在の警備の仕事を始め五年間続けている。大した経歴や資格もない者を喜んで派遣なんて出来ませんよ」
しかし反論したいと思いマイクは必死に事情を伝えた。
「母さん一人じゃ大変そうだったから、いつまでも仮設住宅に居るわけにはいかないし家を手に入れるためにも働くしかなかったんです……!!」
「気の毒ですが今の仕事を続けて下さい、五年もやってるんでしょ? 必要な仕事ですから世の中のためにお願いしますよ」
ビクともせず逆に返されてしまいもう何も言えなっかた。
「それに我が社は人材派遣をする所ですからね、難民なんて誰も欲しがらないと思うんですよ」
その発言に思わずマイクは立ち上がる。
「じゃあどうしたら良いんすか、一生このまま惨めに暮らせって言うんですか……⁈」
「落ち着いてください、気持ちは分かりますよ」
詰め寄られながらも面接官は正直に現実を伝えた。
「しかしこの世の中、誰かの犠牲がなければ成り立ちません。自分がそうなりたくないのならアルバイトでも何でも少しずつ這い上がって下さい」
そんなことを言われてしまい完全に気力が無くなってしまったマイク。
「失礼します……」
トボトボと悲しい背中を見せて派遣会社を後にした。
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そのままマイクは歩いて帰りながら考えていた。何故罪もない人間がこのような惨めな思いばかりしなければならないのか、悪いのは全てビヨンドとダーティアだというのに。
昼間のまだ明るいアストラルを歩きながらあたりを見渡してみる、そこにはマイクの惨めさなど気にもせず安定した仕事をしたりカフェテラスで楽しそうに談笑したりしている一般市民たちが溢れていた。
『この世の中、誰かの犠牲がなければ成り立ちません』
そこで思い出されるのは先ほどの面接官の言葉。
「(ふざけんなよ、俺はこんなに辛い思いしてんのにのうのうと生きやがって……!!)」
怒りや妬みが心から全身へ流れていくのが感じられた、体中の血管を通って血液を沸騰させているようだ。
「~~~っ!」
そのままマイクは走って住んでいる仮設住宅に戻ってきた。
「クリスっ!!」
「おぉどうした……?」
同じく仮設住宅に暮らし何かの準備をしている仕事仲間のクリスの所へ。
血相を変えているマイクに驚いている。
「潜入しよう、汚染区域に……っ!!」
なんと一度断った話をこの場で了承したのだ。するとクリスは待ってましたと言わんばかりにあるものを取り出す。
「ガスマスク、ちゃんと二人分用意しといたぜ」
汚染物質の体への侵入を防ぐためのガスマスクが二人分その手にはあった。
つづく
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