#2

 青年マイク・ディケンズはピュリファインとダーティアの戦闘を一部始終見ていたかった。しかし母親に諭され我に帰る。


「ちょっとアンタもう仕事の時間じゃない⁈」


「本当だ! もっと早く言ってくれよー!」


 慌ててテレビを点けっぱなしにしたまま準備をする。そして玄関に立ち仕事に向かおうとした。


「ったく面倒くせぇなぁ」


 愚痴を言いながら靴紐を結んでいると母親が話しかけて来た。


「そんなに面倒臭いなら無理に働かなくて良いのに。もっといい職に就いて幸せになるため勉強しなさいよ、私がもうちょっと仕事増やすからさ」


「良いって、家がダーティアに奪われてこんなボロい仮設住宅にしか住めなくなってさ……俺が稼いでちょっとでも良い部屋プレゼントするから母さんは楽しててくれよ」


 どうやら彼らはビヨンドが放つ汚染物質で住む所が汚染されてしまい仕方なくこの仮設住宅に越して来たようだ。新たに引っ越すにも金が要るためマイクはバイトをしている。


「ってな訳でさ、俺は今日も警備に行ってきますっ」


 そう言いながら母親に笑顔を見せたマイクは今日も仕事先である警備会社に向かうのだった。

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 まだ雨は降り続けている。

 仕事先に向かう道中、マイクはその新都市アストラルの街を見渡していた。


 仮設住宅という寂れたボロい汚染区域に隣接された土地を出ると景色は科学の発展した近未来的なビルが立ち並んでおりカラフルなライトが夜景を照らしていた。

 丁度夜が始まるという時間帯なので仕事終わりのサラリーマンや派手な女性たち等で溢れかえっている。

 雨がザーザーと降る街の中で一人マイクは夜間警備の仕事に向かって人々とは逆方向に歩いていた。


 ホログラムのように浮いたモニターからは先程のピュリファインとダーティアの戦闘に纏わるニュースが流れていた。


『ピュリファインの勝利に終わった今回の戦闘。未だ正体不明の裏世界から突如として現れたビヨンドには皆さんも恐怖を抱いていると思われます、それを操るダーティアが増え続ける現状にピュリファインの責任が問われています』


 アナウンサーの声が聞こえたためふとそちらを見るとゲートやビヨンド、ダーティアやピュリファインの特番がやっていた。


『我々の住む表世界に突如として開いた裏世界へ通ずるゲート、そこから現れた向こう側の住人がビヨンドです。彼らは表世界の環境では生きられないため裏世界の物質、通称汚染物質を放ちながら表世界を汚して行くのです』


 丁寧な説明の上手さがこのアナウンサーの売りだ。


『更に人体にまで汚染が及ぶとその人はダーティアと呼ばれるビヨンドに近い存在になってしまう、同じく汚染区域の中でしか生きられなくなってしまうんですね』


 分かりやすい図面で表している。


『彼らは自身が生きるために汚染区域を拡大しようとしていますが我らが英雄、浄化警察ピュリファインが今日も浄化をしてくれています。みんなで彼らを応援しましょう!』


 アナウンサーがそう言うと道行く人々が意見を話し合っている声が聞こえた。


「でもピュリファインにもダーティアが増え続ける責任あるよなぁ」


「予算ケチって金になる地域しか浄化しないからだろ?」


 このようなピュリファインを非難する声もあれば。


「ダーティアも元は人間なんだし可哀想な所あるよね」


「だからと言って世界を自分たちの良いように変えようとするのは困るんだよ……」


「元を辿ればゲートが開いてビヨンドが出てきたのが始まりだからな、早く何とかしてくれってんだ……」


 当然のごとくダーティアを非難する声もある。どちらも世間からは好かれていないようだ。

 

「はぁ、俺は自分と母さんが生き残れれば良いよ……」


 そう独り言のように呟いたマイクは仕事先にたどり着いた。

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 マイクが警備を任されているのは汚染区域の周囲だ。そこで友人のクリスと共に汚染区域に入ろうとする者たちが居ないかを見張っている。

 

「いつまでこんな仕事しなきゃなんないのかねー?」


 クリスがはっきりと言った。


「一刻も早く抜け出したいけどな。仮設住宅暮らしの俺らにもまともな仕事させてくれってんだ」


 同情して文句を言うマイク。


「俺らは住む所が汚染されただけで別にダーティアになった訳じゃねーのによ、差別が酷すぎんだろ」


「どうせまた警備員は必要だからっつってこの安月給の仕事続けさせんだ」


 そんな事を言いながらも慣れた手つきで着々と準備を進める彼ら。そして仕事を開始した。

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 そして外に出て警備をしているが彼らは暇そうだ。

 

「今日は全然侵入者いないな、やっぱ近くで戦闘があったからか?」


「いくら金目のものが眠ってるからと言っても命が大事だもんな、ビヨンドが彷徨いてるかも知れない所を迂闊に歩けないだろ」


 暇そうにKEEP OUTと書かれたホログラムの前で立ち話をしている。


「そんな所に俺たちは毎日のようにいる……」


「いつビヨンドとかダーティアがこっから出てくるか分かんねーからな」


「汚染区域の近くはゲートが拓きやすいって言うからな……」


 そこで話題はゲートの事になる。


「本当ゲートって何なんだろうな、まだ出た原因も何も分かってねーんだろ?」


「突如拓いてこの表世界と裏世界を繋げた存在としか言われてねぇな、そんでそっから出てきたビヨンドによって表世界は汚染されて行く……」


「マジで勝手に出てきて他の世界を自分たちの都合良いように作り替えようとすんなよな! こっちは良い迷惑だぜ……」


「父さんが遺してくれた家も……」


 そこでマイクは沸々としたビヨンドやダーティアへの怒りを思い出して行く。


「ヤツら絶対許さねぇ、勝手に俺ん家奪って未だにそこに居座ってやがる。まだそこに居るんだ……」


 そう言いながらマイクは背後の自分が守っている汚染区域を振り返り見つめた。

 そう、その先にマイクのかつての自宅があるのである。


「早く浄化して欲しいもんだよな、いくら端の方の安い土地だからって流石にここまで放置してんのも可哀想だぜ」


「もっとコストをこっちに回して欲しいもんだ……」


 コストの関係でマイクの故郷の浄化は後回しにされている。もっと大きく高価な土地ほど優先的に浄化されて行っているのだ。


「濃度もやべーだろ、だから余計に見ぬフリしてんだ」


「いっそ俺がたんまり稼いでコスト貢いでやろうかな? って無理か、それならちゃんと働いて良い物件借りた方が母さんのためになるな」


 そんな事を言うとクリスがある話を持ち掛ける。


「そんなお前に良い話があるんだけどよ、たんまり金が稼げるぜ」


 コソコソとマイクだけに聞こえるように話すクリス。


「は? 何だよそれ」


 耳を近づけて話を聞いてみると驚きの話を持ち掛けられる。


「俺たちで汚染区域に潜入すんだよ、金目のもの盗んで来ようぜ」


「はぁ? 何のために警備してんだよ」


「このためだったんだよ、俺たちが警備してるんだから警備は居ないも同然だろ?」


 どんどん押しが強くなるクリス。


「お前明日も出勤だろ? その時ガスマスク持ってくるから行こうぜ、悪い話じゃないだろ?」


「う〜ん……」


 母親を想うと危険は冒したくなかった、しかし母親を想うからこそ金が欲しい。しかしやはりマイクには想いがあった。


「やっぱパス。面接も控えてる事だしマトモな仕事できる可能性あるからな」


「マジかー」


 そう言ってマイクは断った。やはり危険を冒すより安全に母のために働き楽させてあげたいという気持ちが勝ったのである。






 つづく

 

 

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