いいけど




(調子が悪いんじゃないか?)


 勇者は魔法使いを注視した。

 いつもと変わらない無表情で、澄ました顔だ。が。

 攻撃が単純すぎる。

 手を合わせた瞬間に頭上から落雷一択。

 片手で持つ剣で振り払いつつ、片手は腕相撲に集中して三連勝目。

 四戦目が終わり、勇者は三勝一敗。

 骨は無事だった。


「魔法使い。日を改めないか。もう朝日も昇ろうとしている。眠ってもないし、腹が減ってはなんとやらだ」


 うっすらと空は明るみを帯びてきた。

 牛乳の味が強いカフェオレのような色だった。

 もう少しすれば、太陽が顔をのぞかせるだろう。


 勇者の提案に、けれど、魔法使いは嫌だと拒否をした。


「立て続けにと言っただろう。時間を置くと、嫌になりそうだから、今やる」

「いや。魔法使いがいいなら、いいけど。いいのか?」

「いい」

「それなら、いいけど」


 先に樽の上に左肘を置いた魔法使いに続き、勇者もまた右肘を樽の上に置いたのであった。











(2023.12.19)



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