じっとぱっと




「ねえ」

「うん?」

「なんで魔王に止めを刺さなかったの?」


 死闘を制した勇者は、けれど、前を歩く僧侶と拳戦士のように大手を振って城へと帰ってはいなかった。


「魔王がさ。言ったんだよ。求婚したい相手がいるって。だからさ」

「違うだろ。そもそも止めを刺す気がなかったんだろ。情けない」

「そうだ。情けないやつだ」


 勇者は顔を向けて横に並んで歩く魔法使いと魔王を見た。

 王に助けてくれるように嘆願するため、魔王も連れて帰っているのだ。


「ふん。敗者に情けは不要だ。さっさと殺せばいいものの」

「殺してくれって頼むなんて、魔王も情けないね。死にたいなら自分で死ねば」

「もうバチバチは止めてくれ。魔法使いも。魔王も」

「「ふん」」


 魔法使いは勇者を、じっと見た。

 勇者は魔法使いから、ぱっと顔を背けては、おずおずと魔法使いを見た。


「情けない」

「………魔法使い」

「なに?」

「城について、王への謁見が済んだら、話がある。とても、大切な話だ。二人で話したい」

「………いいよ」

「ありがとう」

「求婚か。さっさとしてしまえ」

「魔王。私が止めを刺してやる」

「やれるものならばやってみよ」

「バチバチ止めてくれよ」











(2023.12.13)



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