すっかり




「あいつ。俺たちの存在、忘れてねえか?」

「ええ。すっかり忘れているでしょうね」

「忘れているね」


 勇者と共に魔王と闘いに来た、拳戦士と僧侶と魔法使いは横に並んで見ていた。

 魔王と闘っている勇者を。

 傍らでは、魔王の配下も横に一列に並んで闘いを見守っていた。

 実力は、互角、だろうか。

 押して、押されて、押されて、押して。


 あいつ、あんなに強かったっけ。

 拳剣士は、ぽつりと呟いた。


「いいえ。あんなに強くなかったはずですが」

「そうだよな。俺たち四人が力を合わせてようやく、魔王と匹敵する実力だと感じたんだがなあ」


 拳戦士は少しだけ前に乗り出して、僧侶は顔を動かして、魔法使いを見た。

 魔法使いは無言を貫いていたが、ずっと見続けるので根負けして、唇を少しだけ尖らせると時間移動をしていると答えた。


「何回目だ?」

「これで十二回目」

「あなた。大丈夫なんですか?」

「私をそんじょそこらの魔法使いと一緒にしないでよね」


 確かに、拳戦士の眼にも、僧侶の眼にも、いつもと変わらず涼しい顔で体調も悪くないように見えたが、果たして本当に大丈夫なのかどうか。

 気休めでしょうがと断り、僧侶は魔法使いに回復魔法をかけた。

 時間移動は命を削る魔法だ。

 今もなお、削られ続けている。

 回復魔法では削られた命は戻らないが、体力は回復させることができ、僅かでも削る命を少なくさせることはできるはずだ。


「ありがと」

「やっぱ俺たちも一緒に。って、言いたいが」

「あの中に入って行くのはかえって邪魔ですね」

「待とう。勇者が勝つのを」

「ああ」

「ええ」











(2023.12.13)



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