どんどん




「よくぞここまで来たな、勇者一行よ」

「ん?」


 魔王が言い終えると同時に放った一撃を躱した勇者は、あれっと思うと同時に身体にまとう魔力を感じ取って、斜め前方にいる魔法使いへ視線を向けると、視線に気づいた魔法使いがにやりと笑った、ように見えた。


(あいつ)


 時間移動を使いやがったな!




 魔王城の魔王の間にて。

 息つく暇も与えないと言わんばかりに、魔法と剣と拳を連続で放ちまくる魔王の攻撃を躱していた勇者は、とてつもなく腹を立てていた。

 時間移動は、魔法使いの命を削る魔法だ。

 戻る時間が長くなる分だけ、命をどんどん削られていく。

 魔力が莫大で、寿命も長い魔法使いのことだ。

 命が削られていくと言っても、微々たるもので、すぐに命は絶えるとかそういう話はないだろうが、それでも。


(早く。早く。魔法使いに戻るように。いや)


 早く、魔王を倒さないと。

 魔法使いは恐らく、魔王を倒すまでは、何度だって。

 時間移動し続ける。


(ハヤク。ハヤク)


 勇者は集中した。

 魔王の動きだけ。

 魔王だけに。

 身体を、五感を、精神を、剣技を、殺気を、研ぎ澄まし続けた。











(2023.12.12)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る