なんだか




「求婚も断られて、魔王にも負けて、あと私にできることと言えば、無残な死に様を全世界中の人々に見てもらい、私に続く勇者や魔法使いや剣士や銃戦士や拳戦士を芽吹かせることぐらいだ。っく、くく。魔王よ。魔王と闘う者が私たちだけだと思うなよ。そこら中にいるからな」


 アーッハッハッハッハ。

 高笑いする勇者を牢屋の格子越しに見つめた魔王は、哀憫のまなざしを向けた。

 病んでいる。

 求婚に断られて、さらに、自分に負けた二重の衝撃で病んでしまった。

 魔王はなんだか気の毒に思い、せめてと提案した。


「あの。その十二本の薔薇をそなたの形見分けとして、もらってもいいかの?わし、そなたに勝ったから、求婚しようと思っておっての」

「え?」


 敵対する勇者が持っていた薔薇の花束をもらって、その求婚される魔族かどこぞの誰かは嬉しいのか。

 いや、勝利の品だと思えば、嬉しいのか。


(いいか。この薔薇も誰にも受け取ってもらえないなんて、かわいそうだしな)


 種から選別して、大事に大事に育ててきた薔薇だった。

 虫に食べられてこともあった。

 病にむしばまれたこともあった。

 盗賊に奪われたこともあった。

 それでも諦めずにこうして十二本、立派に美しく育ってくれたこの薔薇が、誰にも受け取ってもらえないなんて。

 魔王でもいいじゃないか。

 喜んでもらえるなら。











(2023.12.12)



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