そこ、どこ




 人生の最高潮だった。

 世界を背負った生死を決する闘い。

 一番煌めいていたと自負する。

 もうこの瞬間を超える煌めきは発せられない。

 だから、今だと思ったのだ。

 今でしょ、求婚するのは。


 まさか断られるなんて、思いもしなかった。




「やっぱり、魔王に待ってもらって求婚したのが恰好悪かったのかなあ。死闘を続けながら魔法で隠していた十二本の薔薇を手に持って、魔法使いに悪戦苦闘しながら近づいて、求婚すべきだったのかなあ」

「いや、そなた、そんな悠長なことを考えておる場合か?」

「え?」


 首を傾げる勇者に、魔王は呆れた顔と親指を向けた。


「そこ、どこだかわかっておるのか?」

「え?牢屋の中」

「そうだの。牢屋の中だ。なにゆえ牢屋の中におるのか、理解しておるか?」

「え?魔法使いに求婚を断られた衝撃で固まった私に、魔王が氷の魔法をかけて凍らせて捕まえたから」

「そうだの。では、捕まった勇者はどうなると思っておるのか?」


 っふ。

 勇者ははかなげに微笑を放ったのち、目をかっぴらいて真顔で言った。


「全世界中に私の死の映像を放送しろよ、魔王。加工できないように一部始終きちんとな」

「え?なに、こわっ」











(2023.12.12)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る