最終話-6 決戦、魔王城
ナジャは、いそがしく働いているフリをしながら、魔王城の奥へと
とはいっても、危険は何もなかった。
魔王城の中には、魔族も魔獣も、ほとんどいなかったのだ。
魔族の
(なるほど、
あまりに
(今のうちに探すんだ。ヒメ様はどこ!?)
広大な魔王城を、右へ左へ、うろつきまわり……
ある部屋の前をとおりかかったところで、ヒトの話し声が聞こえてきた。
見れば、ドアが
ナジャはドアのそばの壁に背をつけ、そっと、聞き耳をたてた。
「やってられんな……」
「ぼやくなよ」
「魔王様はどうかしてるんじゃないか?」
「まあな……」
どうやら魔族ふたりが、グチを言いあっているらしい。
「ほんと、この
「いやあ、わかってないでしょ。
「知ってる? あの
「それでかよ!
ロクに魔術も使えないくせに、なんであんなに
「魔王様の
「あー……買わされたな、魔王様の本……
お前、読んだ?」
「3ページで
「ホント魔王様はさあ……
思いつきでムチャな命令するし……
そのくせ自分が言ったことをコロッと忘れてるし……」
「『忘れてる』で思いだした。
あのヒメナイトってやつ」
「あー」
「『
魔王様、完全に忘れてたそうじゃない。
ありえるか?
アレで何人も死んでるんだぜ?」
「なんか昨日つかまえたんだっけ? ヒメナイト」
「
「
「いや、南の
見まわり
「あー。それはしんどいなー……」
「ほんとなー……」
「もう、やめよっかなー……魔王軍……」
「いっしょに
「いいねえ。やろっかな……」
えんえん続くグチ
窓から空を見あげる。石づくりの大きな
(南の
目標を見さだめて、ナジャは飛ぶように駆けていった。
*
その
ナジャは
入口の前では、
(チャンスだ……)
足音を
重たい木の
と。
「おい、お前! そこで何をしている!」
いきなり
ナジャは、ビクリ! と
そこには、身なりのいい魔族……おそらく
ナジャを
「見ない顔だな……新しい
こんな場所に何の用だ?
……ちっ!
魔族兵が、悲鳴をあげて目を覚ます。
そのあいだ、ナジャは
(ヤバい、どうしよう、どう切り抜ける……?)
そのナジャへ、
「あやしいな、きさま……
さあ言ってみろ。なぜこの
言えぬようなら……!」
と、
魔術の光が、ナジャへ突きつけられる……
と、そのとき。
ばんっ!! ばばばばんっ! ばん!!
突然鳴り響いた爆発音に、ナジャは飛びあがった。
「なんだっ!?」
その直後、
ヒュだッ! ダダッ! ヒュぅぁッ!!
矢の雨! そうとしか表現しようのない無数の矢が、壁の外から、魔王城内へと撃ちこまれてきた。
「うわあ!?」
「矢!? 敵ィ!?」
「うお! わ! わあ!」
あわてて逃げだす魔族兵。
それを「あっ! バカ……」と止めようとしているうちに、頭を
ナジャはおおあわてで
(この矢は……ひょっとして!?)
*
魔王城の
人間だ。
武器を手に取り、
反乱軍!
その先頭に立って弓をビュンビュン鳴らしつつ、反乱軍リーダーのユンデは
「止まるな!
進め!
うおおおおおおお!!
たかが
ただの石でも、当りどころが悪ければヒトは死ぬ。
それが何百何千と、雨あられのように降ってくるのだ。
「うっ……うわああああ!?」
門番たちは恐怖にたじろぎ、あわてて門の中へ逃げこもうとした。
その後頭部を、
血がふきだす。門番が倒れる。その死体を
*
「城内に入られただと!?
門番たちは何をしていたんだ!」
城の奥では、
「は! それが、あまりに突然のことで……
城下町からいきなり敵が
「バカを言うな! 何もないところから軍勢が
*
だが……実際、軍勢は
ユンデと、その仲間たちが、
もうガマンならない。
このままでいいのか?
いつまで魔族に暮らしをおびやかされ続けるんだ!?
今こそ立つとき!
ヒメナイトを救いだせ!
ヒメナイトなら、魔王を倒せる!
その呼びかけは、ヒトからヒトへ、はやてのように伝わって……
伝わるうちに、尾ヒレがついて、背ビレもついて……
いつのまにやら
「今日で、魔王軍は終わりだ!!」
それはただの思いこみだ。人々の
だがどんなタワゴトでも――信じてしまえば、それが真実!!
「魔王軍を、倒せェーッ!!」
老いも、若きも、男も、女も、子供や、病人や、飼い犬や、ノラ猫さえも、
いまや、反乱軍の兵力は3万超。
対する魔王城守備兵は、たったの50名。
勝負にもならない。
魔王城は、みるみるうちに反乱軍の波に飲みこまれていく。
*
……が。
「どいつもこいつも……」
城内の
「好き
魔王ムゲルゲミル!
反乱軍のひとりが、それに気づいて空を指さした。
「見ろ! 上だ! 魔王がいるぞ!」
「魔王だ!」
「殺せェ!」
「石投げろォ!」
とたんに始まる
しかし魔王は、冷たく
「
《爆裂火球》ゥーッ!」
ゴバァァァンッ!
投げ下ろされた
火球が反乱軍のドまんなかで
「《爆裂火球》!
《爆裂火球》!
《爆裂火球》!
そんな思いを、政治も分からないバカどもは平気で
こういうクズは社会から
そこへさらに、聞こえてくる獣の叫び。
魔獣だ。魔族たちが、城内で飼っていた魔獣をときはなったのだ。
城内の建物を
2階だての家ほどもある巨大な体に、肉食の
それが反乱軍の
たちまち
魔王の術と、魔獣の攻撃で、戦い
これを見て、リーダーのユンデは顔色を変えた。
「まずいっ……!
みんな落ちつけ!
戦うんだ!
敵の数は少ない! 落ちつけば勝てる相手なんだ!」
しかし、必死の叫びは、恐怖にとらわれた
このままでは、反乱軍が
*
そのとき、空の、はるかかなたから――
ヒュッヒュッヒュッ……
ギャッギャッギャッギャッギャッ……
ギェッギィィィィィ……
かん
ギイイイィィィイヤアアアアアアッ!!
空中から、一直線に放たれた光線が、ナナメに魔王城を
「な!?」
驚きの声をあげる魔王の目の前で、
キュッゴアアアアアアアア!!
大爆発が、城もろともに数匹の
「これはっ……
まさか!?」
はじかれたように振りかえる魔王。
その視線の先にあったのは……
超音速で飛来する、白銀巨体の飛竜が1頭。
――
そう……かつて魔王軍によって我が子を殺され、狂気におちいり、また魔王軍に殺されかけていたところを、ヒメナイトによって救われた……あの竜である。
その頭の上には、必死で
キリンジだ!
「待たせたなっ!
ヒメ! ナジャ!
ガッォオオオオンッ!
竜は魔王城の上空までくると、大きな翼を広げて止まり、
『
魔王よ!
そして竜がはなつ、連続
ギャッ! ギャアッ! ギャォオァッ!
魔王はそれを
さらに。
光輝く竜が味方についてくれたらしい、と見てとった地上の反乱軍が、一気に息を吹きかえした。
「よぉし! 今だ! 攻めこめ! 魔王軍を
この状況を見て、魔王は、にぎり
「お……のれェッ……
トカゲふぜいがァーッ!!
(つづく)
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