最終話-5 真実
ユンデに
その
くだんの
この当時の
食事、飲酒、散髪など、さまざまなサービスを受けられる
建物の中には、ついたてで
客は、1人につき1つずつの
なかには、女性店員がいっしょに入浴してくれる、などという、いかがわしいサービスを売り物にしている店もあり……
そんな
こういう店に通いつめる魔族はめずらしくなく……
サービスするがわの人間が
店に入ったナジャの耳に、まず聞こえてきたのは、女性のカン高いあえぎ声。
そしていくつものバカ笑い。よっぱらいの意味ない叫び。店員を呼びつける
それらを意にもかいさず、ナジャは、ツカツカと店の奥に
奥の一室には、カーテンで
ジャッ! と、ナジャがカーテンを開く。
そこに、目的の人物がいた。
その名は、
かつて
よりにもよって、魔王軍にいる
「おう、来たか。
お前ら、もうあがっていいぞ」
「はぁーい」
女たちが
部屋の中には、裸の魔族ザザン、ナジャ、その後ろで警戒の目を光らせるユンデ、この3人だけが残された。
「あなたが
「そういうお
反乱軍にしちゃカワイイ顔してらァ」
「カワイイのは生まれつきだ。
それで、魔王城に忍びこむ方法っていうのは?」
魔族ザザンはヘラヘラ笑って、
「あんた、家事はできる?」
「たしなむていど」
「けっこう。
そんなら話はカンタンだ。
魔王城は
俺が口ききすれば、無審査で即採用さ。
城に入りこんだあとは、そっちで好きにやってくれ」
「ひとつ聞きたいんだけど」
「あん?」
「わたしたちに協力して、あなたに何のメリットが?」
「いいじゃねーの、そんなこと」
「腹をわって話す気がないなら、この話はなかったことに」
ナジャは冷たく言いはなち、くるり、と魔族ザザンに背を向けた。
あわてて腰を浮かせるザザン。
「お、おい! ちょっと待てよ!
分かった、話すよ」
「聞こう」
「お前ェ……
ちっのいのにキモが座ってんなァ……
もし俺が『あっそう。じゃサヨナラ』って言ったらどうする気だったんだ?」
「そのときは別の手段を考えるまで。
見かえりもなしに協力を申し出てくる相手なんて信用できない」
「なるほど、こりゃあ手ごわい……
そんじゃ、ま、はっきり言おう。
俺は魔族のテッペンに立ちてえのよ。
あんたたちが魔王を倒してくれりゃ、俺が次の魔王になるチャンスも来る。
だろ?」
「わたしたちがそれを許すとでも?」
「もし俺が魔王になったら、お前ら人間と
人間の国は、あんたたちが
俺は魔族を支配する。
俺は政治なんかには興味ねえからな。
あんたらが
「それ、他の魔族が
「するしかなかろうぜ。
はっきりいって、今の魔王軍は、ムリな拡大政策のせいでガタガタなんだ。
戦力は無い。金も無い。食料すら足りてない。
最近じゃあ、新しい土地を
自転車
千人にも満たない魔族で、一国の人間を支配しようなんて、どだい無理な話だったのさ。
結局、
どうせ
な……損はさせねえぜ?」
*
そのころ、ヒメナイトは魔王の
ヒメナイトが見ているものは
正しいか、まちがっているか。
事実か、事実でないか。
そんなことは、たいした問題ではない。
どんなタワゴトでも、いったん信じこめば、それがそのヒトにとって、たったひとつの真実になる。
他人からは、どんなにバカげて見えようと……
どれほど
ヒメナイトの見ているものだけが、ヒメナイトの世界における真実。
そう、あのときも。
ヒメナイトは、
「なぜ
この
どんなにつらい
おだやかな、優しいヒトだった。
その
あの
「お
お
『ヒメナイトはどうしてる? 誰かウワサを聞いてないか?』って、そればっかり気にしてさあ……!
それなのに、お前はっ……
お
お前ってヤツはァーッ!!」
「お前というヤツはァ!
今度こそ許さん!!」
寒い寒い、風ふきっさらしの
投げ落とされて、ほおでふれた石床は、氷のように冷たかった。
だがそれ以上に
「ちちぅぇ……」
こわばった
「また
なぜだ!?」
問われて、ヒメナイトは答えにつまる。
いねむりの理由は単純、
家庭教師から出された宿題があまりにも多く、泣きながらそれをやっているうちに、眠る時間がなくなってしまったのだ。
だが、それを正直に言って、どうなる?
『いいわけをするな、バカ者!』そう
水をかけられるかもしれない。
言えない。
怖い。
泣くしかない。
しかし
「言え! 言わんか! 言ってみろッ!
なぜ言わん……イライラさせるなバカ者がァッ!
きさまのようなヤツをクズというのだ!
そんな無能が、国をしょって立てると思うのか!?
王位を
そんなクズは私の娘ではないッ!
ヒメナイトは、ボロボロ涙をこぼしながら、
ただ
今のヒメナイトであれば、
だが……
「ぃゃっ……
ぃゃぁ……ちちぅぇ、ゃだぁ……」
「イヤならちゃんと
なまけるな!
ヒトとしてやるべきことをやれ!
これを私は何回お前に言ってきた!?
言っても言っても言うことをきかない……カスが! ずっとそこにいろッ!!」
バタンッ!
ヒメナイトは、泣き叫びながら
開かない。カギがかけられている。
ヒメナイトは
「ちちうえ! ちちうえ! ちちぅぇぇ……」
耳をかすものは、誰もいない。
風は、雪さえまじえて吹きつづけた。
いつまでもいつまでも吹きつづけた。
「イヤだっ……
捨てないで……
死にたくない!
イヤだぁーっ!!」
「……イヤだ」
ヒメナイトは、
あれは、もう何年前のことになるだろう?
行き倒れて死にかけていたところを、
だが結局、その剣聖の
ヒメナイトは、ひとりになった。
ひとりで各地を
みよりもなく、
食いつなぐ方法は、ひとつしかなかった。
ただひとつ持ちえたもの……剣聖から学んだ剣の腕前をいかして、
ギリギリの生活をつづけながら
ヒメナイトは、ある国の
その国は、ロコツに
ヒメナイトは、その
そのたびに西へ走り、東へ飛んで、敵となるものを斬って殺した。
魔獣、魔族、敵国の兵士、国内の
はじめこそ、人間を殺すことに
矢つぎばやに命じられる仕事のために、ほとんど寝る時間さえ取れなくなり、つもりつもった疲労の中で、ヒメナイトの感覚は
このころから、ヒメナイトは体調をくずしがちになった。
まず吐き気がきた。
歩くのが
なんでもないのに、突然、涙がこぼれるようになった。
何度も吐いた。
物がほとんど食えなくなった。
横になっても眠れず、夜明けまで泣きつづける……そんな夜が増えた。
仕事も増えた。
ヒメナイトは人間を、斬って、斬って、斬って、殺した……
そんなある日。
外人部隊の隊長に呼びだされ、直接、命令をくだされた。
「殺せ。1人も逃がすな」
ヒメナイトは
そして、立ちつくした。
テロリストの
突然あらわれた重武装のヒメナイトに、村人たちは、首をかしげて問いかけた。
「これは騎士様、こんな
して、なにかご用で?」
村の子供たちは、わらわらヒメナイトに寄ってきた。
「わー! 剣だあ!」
「すっげ! さわらして? さわらして?」
ヒメナイトは、もちまえの内気さで、子供たちから逃げるように、あとずさった。
どういうことだ? これのどこがテロリストなのだ?
ヒメナイトは、
「どういうことですか」
問うヒメナイトに、隊長の答えは、ひとこと。
「もういい」
満足のいく説明は何ももらえず、部屋から追いだされ、とほうにくれていると……
しばらくして、ものものしい音が聞こえてきた。
(またどこかで戦争かな。
どこに行くんだろう……)
バカだった。
なぜ気づかなかった?
あのときすぐに気づいていれば!
ヒメナイトが『その可能性』に思い当たったときには、すでに、たっぷり半日以上もの時間がすぎていたのだ。
(まさか……あの部隊は……
あの村を攻撃しに行ったのか!?
私の、かわりに!?)
「イヤだ」
ヒメナイトは
「イヤだ。あのヒトたちを死なせたくない」
駆けた。走った。
そして見た。
燃えあがる村。
転がる死体。
ヒメナイトに『剣さわらせて』とねだってきたあの少女に……
槍を突き刺す、武装した兵士。
「あ……
ああ……?
ァッ……ァァアアアアアアアァァッ!!」
*
ぐぱっ……
魔王城の
涙が出る。
涙が止まらない。
「イヤだ。
もうイヤだ。
生きていたくない
死ぬのが怖い。生きるのがイヤだ。
生きたくない。
生きたくない。
もういやだ!!
死なせて!
死なせてぇっ……」
どうして早く死んでおかなかった?
あんなに死にたかったのに、死ぬのを恐れて、後回しにして……
今ではもう、何もできない。
死ぬことさえも。
*
今、できることをやる。
命を
ナジャは今、魔王城の
着ているのは、
しかも、申しこんだ当日から、
「ではナジャさん、ひととおり分かりましたね?」
やせた中年の
ナジャはピンと背すじをのばす。
「はいっ! ありがとうございます!
まず何からやりましょうか?」
「では2階の
(待っててヒメ様。
行くからね。ぜったい助けに行くからねっ!)
(つづく)
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