第2話-5(終) 死ぬよりも苦しい道を、もう一度
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……
ヒメナイトは、疲れた体を気合でふるいたたせ、
これでもう、倒した敵は200匹近い。さすがのヒメナイトも疲労の色が濃くなってきた。
彼女の頭上では、竜もまた、たえまなく
その口からは、ときおり、
なのに、
(まずい……どうする?
どうすればいい……?)
と、そのとき。
「ゲッギャァ!」
わめき声とともに、数匹の
どうやら敵の一部が、後ろ側へも回りこんでいたらしい。
ヒメナイトは、あわてて
そのとたん、今度は前から
前後
あっ、というまに敵がむらがり、竜の足元に飛びかかる……
そこへ、
「《発光》!」
突然、魔術の光が
術を投げこんだのは、キリンジ!
この
「うおおおお!」
「叩け! 叩け!」
「俺たちの村は俺たちで守るんだあ!」
村人たちだ!
彼らの手には、金属製の農具が、にぎられている。
いささか
この
竜だ。
竜は、必死に戦う村人たちを見おろしながら、ゆらり……と、目を涙で
『赤ちゃん……?
……いや? 赤ちゃんは……
こんなふうに生きるための戦いを
竜が静かにつぶやくのを、ヒメナイトは、そばで聞いていた。
あらく息を吐きながら、つい、魔剣をふるうことも忘れ、竜をじっと見つめていた……
その
しかし命中の直前、
「うりあー!!」
横から突っこんできたナジャが、手にしたクワで、思いっきり
「ギャベェ!?」
「この! このおォッ! あっち行けっ、おらおら!」
「ナジャ? 来てくれたの」
「はいっ! ここは、わたしたちが引きうけます!
ヒメ様は敵の魔族を……」
と言いかけたところで、頭上からキリンジの大声が聞こえてきた。
「見つけたァー!
魔族だ! あっちの丘の上にいる!」
キリンジは空に飛びあがり、敵の術士を探していたのだ。
術士さえ倒せば、操られている
ヒメナイトは魔剣を
力強く、うなずいた。
「うん!」
*
一方。
魔族たちは、
「まずい……まずいまずいっ!
例の女剣士が、こっちへ来るぞ!」
「この場所が知られたのか!?」
「おい、
「1人で
あんなバケモノ止められるかよ!」
「うわっ……うわわわ! どんどん近づいてくるっ!」
浮き足だつ魔族たち。
あわてふためいた魔族が、助けを求めて後ろをふりかえる。
「ザザン
……あれ!?
*
村人たちが竜に
「ほっ、ほっ、ほっ」
(さて……
魔王城には、なんて言いわけしようかな?
ま、いいか!
部下が無能だった、ってことにしとけば、魔王も
ようするに、つるしあげてイジメる
*
ギイィヤァッ!
ギャッ!!
ギャアアァアッ!!
ヒメナイトの行く先の
竜が、こちらを
ヒメナイトは、ニッ、と口に笑みを浮かべた。
魔族たちのたむろする丘は、もう目と鼻の先。
「ぅぉおおおおおおっ!!」
バッ……
と魔族たちの前に飛びだし、ほの青く輝く魔剣を抜きはなつ。
「ひっ……わああああ!?」
悲鳴をあげて後ずさる魔族の首を、
「
斬!!
ヒメナイトは、一刀のもとにハネ飛ばしたのだった。
*
戦いが終わり……
ヒメナイトが戻ってきたとき、村は、消火作業におわれていた。
川で水をくみ、火にぶちまける。ひたすら、そのくりかえし。
ヒメナイトもナジャも、そして竜も、必死で消火をてつだった。
そのかいあって、夜が明けるころには、なんとか火を消し止めることができた。
地下の倉庫に保存してあった
「よかった、みんな
「お前らも、ほんと、生きててよかったよ……!」
抱きあってよろこぶ村人たち。
その姿を遠目にながめながら、竜は、ドスンと林の中に座りこんだ。
じっ……と、うつむくその視線の先に、ヒメナイトがあらわれる。
「……気づいたんだな」
『ああ……思い出したよ。
あの子には、もう……二度と会えないのだなあ……』
竜は顔をあげ、ふたたび、村人たちに目を向けた。
朝日が目に入ったのか、竜が、まぶしげに目を細める。
『いつか子供は大人になって、親のもとから巣立っていく。
それはさぞかし
ヒメナイトは、竜に歩み寄り、そっと、ウロコに手をふれた。
「私には、親がわりに育ててくれた、剣の師匠がいて……
修行中、口すっぱく言われたよ。
剣のひと振りごとに、自分に問いかけろ。
何を斬る? なぜ斬る? どうやって斬る?
その問いと答えとが
あなたも今、問うべきなんだと思う。
大切なものを
竜は、だまってヒメナイトの言葉を聞いていた。
やがて、そっと目をふせて、ヒメナイト体に
『……大切にしているのだな。そのヒトから教わったことを』
一般に、竜の顔面は固く、表情はほとんど変化しない。
だがこのとき、ヒメナイトには、不思議と竜が、ほほえんでいるように見えた。
と、そこへ、
「おーい! ヒメ様ァー!」
ナジャの声が聞こえてきた。
村のほうから、ナジャが走ってくる。
ナジャだけではない、その後ろには、村人たちも
「どうしたの」
「ちょっと竜さんに話があって」
村人のひとりが、竜の前に進み出た。
竜は、きまずそうに目をそらす。
『……なにか』
「俺ら、みんなで話しあったんですが……
もしよかったら、竜さん、この村で
あなたがいれば、心づよいし……」
『!』
竜が、おどろいて目を見開いた。
『……
「それは、いいんです。
みんな
それに……俺らは、
変だとは思いませんでしたか?
こんな
しかも村人は中年の男ばかりで、女や子供は、ひとりもいない。
実はねえ……
俺たちは、魔王に滅ぼされた
家族を殺され、国も
こんな
だから、ね……
なんていうか……
ほっとけないんです。
ひとりは……さみしいでしょう?」
やがて……
ナジャが飛びあがり、ぱんっ! と手を鳴らした。
「それがいいっ!
絶対それがいいですよっ!!」
『ふっ』
と、竜は苦笑をもらす。
『そうだな……
死ぬよりも苦しい道を、もう一度――』
*
かくして、隠れ村の竜
ヒメナイトたちは、竜と村人たちに別れをつげ、ふたたび魔王城へ向けて旅立ったのだった。
*
――そのころ。
魔王は、魔王城の
そこへ、
「魔王様ッ!」
魔王は、大アクビを
「なにごとか?」
「西方面軍のザザン
ヒメナイトを発見した……とのことです!」
……………。
魔王は少し
「ん……おお! ヒメナイトね! そうか。バルグルを倒したやつだったな」
「ザザン
どうやらヒメナイトは、西部山脈ごえのルートで魔王城を
「ふうん……? ザザンの部隊は、鬼が300くらい、いただろう?」
「
「そんなにか。
ザコの魔獣では、どれだけ数がいてもダメらしいな」
「そのようです。
どのようにはからいましょうか?」
魔王は
「魔族の
この魔王ムゲルゲミルに逆らった罪……きゃつの血をもって、あがなわせるのだ!」
第2話 完
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