第1話-3 反撃開始!
太陽が、西にかたむきはじめた。
ナジャ、ヒメナイト、キリンジの3人は、街はずれにある
あの会議のあと……
ヒメナイトが1人で
そこにたしかに
いけるかもしれない。
魔獣を狩るほどの戦士がいるのなら、
かくして、みんなの意見は
まず、散りぢりになった避難民たちと連絡を取らねばならない。
ナジャたちのいる都市遺跡の他に、避難民の逃げこみそうな場所といえば……街の北にある共用林か、西側にある山地。まだ街の中に取り残されている人も、おおぜいいるだろう。
その人たちと
そして
守りが手薄になったところで、
そんなわけで、ヒメナイトたちは、この
戦争に巻きこまれた経験の少ないこの街は、城壁もさほど高くない。
「ふーっ……緊張するなあ」
ナジャは、街のほうをジイッとにらみながら、胸にたまった息をはきだした。
後ろでは、キリンジがヒメナイトの頭の上にあぐらをかき、へっ、とナマイキに笑っている。
「よく言うぜ!
「えーっ? わたし、そんなに
「
「ダメかなあ?」
「いや、名案じゃねーの? ヒメの性格をよくつかんでると思うよ。ヒマにさせとくのが一番怖いんだ、こいつは」
ペチッ、とキリンジがヒメナイトの頭をはたく。
はたかれたヒメナイトは、
「死にたい死にたい死なない死にます死ぬ死ぬとき……死ねば死ね死ね死にましょう……」
死の五段活用を
「ヒメ様。いまのうちに、ごはん食べときましょ! 少ししかないけど……はい、これはヒメ様のぶん」
と、ビスケット2枚をさしだす。
しかしヒメナイトは、うつろな視線を、じいっとビスケットに落とし、
「私は……いらない」
「えんりょしないで! 助けてもらう分お礼をしなきゃ、わたしの気持ちがおさまらないんだから」
「ぃゃ……食欲が……ないんだ。ぅヴッ……」
ヒメナイトが低くうめいて、顔をそむける。食べ物を見ただけで吐き気をもよおしてしまったのだ。
思いもよらぬこの反応に、ナジャは困惑して手をひっこめる。
(ええ……食べ物も受けつけないの?
『心を
命にかかわるじゃないか、こんなの……)
しかたなく、ナジャはヒメナイトの背中をさすってやりながら、彼女の荷物カバンにビスケットを差しこんだ。
「ヒメ様、ここ、入れときますからね。気分が良くなったら食べてくださいね。ね?」
「うん……
ごめんね……こんな私に、優しくしてくれて……
ありがとう……」
「いやいやいやいや! それぜったい逆! 助けてもらったの、わたしのほうじゃないですかー!
ヒメ様ってホントに強いですよね。ビュンッ! ビュゥンッ! バァーッ! って! どうやったらあんなふうに戦えるんですか?」
「え……修行した」
「へー! 修行? どんな? どんな?」
目をキラキラさせて身をよせるナジャ。
ヒメナイトは少し引きぎみに、しかしまんざらでもなさそうに、ポツリポツリとしゃべりだす。
「あの……昔、お師匠様に剣を教えてもらって、いろいろ……
「試合って、剣で戦うの?」
「
「うわー! バシバシ打ち合うんでしょ?
「うん、痛い……あ、ここ、まだ傷が残ってる」
と、
「ほんとだ……うわあ、ヒメ様すごい筋肉! きっとヒメ様なら、試合したって連戦連勝なんでしょうねー」
「そんなことないよ。むしろ、
お師匠様も、先輩たちも、ものすっごく強くて……」
ヒメナイトは、いつのまにか雑談に引きこまれ、修行時代の思い出を楽しそうに語りはじめていた。
ナジャは
そんな2人を見守りながら、キリンジは内心、舌を巻いている。
(すげえな、ナジャは……
ヒメをあんなふうに笑わせてくれるなんて。
思い出話に夢中で、あのヒメが『死にたい』って気分を忘れちまってるぜ……)
*
楽しい時間は、あっというまに過ぎさって……
日が沈んだ。
そろそろ約束の時刻。
3人が、息をのんで街を見まもっていると――
ドォンッ!!
突然の爆破音が、たそがれの空をふるわせた!
ついで、わあっ……わああっ……と、悲鳴とも
「始まった!」
「いけるか、ヒメ?」
「うん」
3人は顔を見あわせ、うなずきかわすと、いっせいに
狙うは敵の親玉、
*
街は大混乱におちいった。
魔王軍に占領された街……そのあちこちにたむろする魔獣たちへ、どこからともなく
魔獣の背後に回りこみ、石ツブテを投げつける。
怒った魔獣が反撃してくれば、サァッと細い
かと思えば、ものかげから元気のいいのが踊りでて、魔獣のわきばらへスコップやクワの一撃を突きいれる。
もとより、ここは故郷の街だ。こまかな道まで知りつくしている。
その地の利をいかし、攻めては逃げ、逃げては攻め、さんざんに魔王軍をひっかきまわしたのだ。
*
魔族たちは、あわてにあわて、
「バルグル様! 大変です!」
魔族が飛びこんできたとき、屋敷の大ホールには、
「そもそもォ! 『カワイイ』という概念は、無数のピースに分けられたジグソーパズルのようなものなのです」
ホールの真ん中で両手をふりあげ、
魔王軍指揮官、
彼の前には、10人ちかい人間の
しかも
なぜこんなキテレツなカッコをさせられているのか?
理由はもちろん……「カワイイから」である。
「ヒトとヒトとが、たがいの欠けた部分をおぎないあい、結びついて、ひとつの偉大な絵画を構成する。
このとき埋めあわせられた欠乏の中にこそ、真の『カワイイ』は
協調! 友愛! カ・ワ・イイッ……!
ですが! そこにはひとつ、パズルの完成をさまたげる重大な困難がまちかまえているのです!
なんだと思います? ハイ、そこのアナタ」
指さされた
「ピ……ピースをなくしちゃう……とか?」
「すんばらしいッ!! そのとおり!!
えらいねえ〜! カワイイねえ〜!! きみは
だが、自分が怖がられていることを、バルグルはまったく気にしていない……いや、そもそも気づいてすらいないのである。
「そうなのです! どんなにステキなパズルでも、ピースがそろわなければもうダイナシ!
消えたピースはどこにある?
ポッケの奥か?
ヒトは! だれしも! なくしたピースを追い求める永遠の探求者!
つまり『カワイイ』の
ここで、とうとうがまんの限界をこえ、魔族が
「バッ、バルグル様ァ! ご報告が……!」
「いま大事な話のとちゅうでしょッ!?」
「すみませんっ! しかし、人間どもが反撃してまいりまして!
我々の手持ち魔獣だけでは手が回りません。追加で何頭か、お貸しいただければと……」
「ほう?
そのぶんワタクシの警護を手薄にしろと?
えらくなったものですねえ、きみ」
ぬらりっ……
と、暗い視線を、魔族へ向けるバルグル。
魔族の顔から血の
「ひッ!?
いえ! その、もうしわけ……」
「ま、いいでしょう。
この地域に
ちょうどいい機会です。魔王様からいただいた
と、
やがて、1人の女性に目をつけ、その頭を、
「アナタ。アナタがいい。素質がある。
ワタクシの、新しいピースになってくれますね?」
「ひィッ!? いやァ!! 助けっ……」
ズブッ!!
バルグルがいきなり、手の中に持っていた注射針を女性の首に突き刺した。
えたいのしれない液体が、女性の血管にそそぎこまれていき……
やがて、
ぼごおッ!!
女性の体が、内側からはじける!
ボゴッ……グゴッ……
不気味な音をたてながら、肉はふくらみ、ゆがみ、のびあがり、女性を人間ではない何かに作り変えていく……
「あらー! 思ったとおり!
とってもカワイイ♡」
女性だったモノの
「さ、人間どもを皆殺しにしてきなさい♡」
(つづく)
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