第42話 2021年9月1日。「2つの教わった愛を君に届けるよ」
3
9月1日。
『ピピピ』とタイマーの音が聞こえる。時刻は午前7時30分。
今日は、久しぶりに早起きをした。学校に行く。
もう俺は、前を向いていくって決めたんだ。だから、こんな生活ともおさらばだ。
ありがとう小雪。そして、またな。
『ガチャ』というドアノブの音と共に、1年間動くことのなかった時計の針が動き出す。
リビングの食卓には、重ねられた食器と、ラップの掛けられた朝ごはんが並んでいた。
この朝ごはんは、多分俺の分だ。今日、俺が部屋から出てくるという確証もないのに、望月さんは毎日俺の食事を作ってくれていた。
俺は、そんな朝ごはんの前に腰掛ける。
「いただきます」
こんな俺を思ってご飯を作ってくれた望月さんに感謝を込めて手を合わせる。
「おいしい…すごくおいしいな…」
なんて暖かいご飯なんだ。1年ぶりの手作り料理は、心がぽかぽかする、そんな味だった。
「ごちそうさまでした…」
ご飯を食べ終えた俺は、近くの綺麗に畳まれた制服を手に取る。
この制服も、毎日洗ってくれていたんだろう。しわ一つない太陽の良い香りがした。俺が、いつ部屋から出てきても良いように、いつでも学校に行けるように。
ありがとう。
そんな1年ぶりに腕を通した制服は、なんだか小さい気がした。
そして準備を終えた俺は、玄関のドアノブに手をかける。怖くて手が震える。それは、1年ぶりに外に出るのが怖いというのもあった。
でも、そんなことより、みんなはまた仲良くしてくれるか不安だった。1年間もひどく当たった望月さんは許してくれるだろうか。たくさん心配のメールをくれたのに無視してきた。詩乃と叶翔は俺のことが嫌いになったりしていないだろうか。
そんな不安でいっぱいだった。
たくさん迷惑をかけたのに、こんな考えは傲慢で、わがままだと思う。本当は、また仲良くなるなんて難しい現実だ。
でも、またみんなでたくさん遊んだり、ご飯を食べたりしたい。前みたいに仲良く笑い合いたいな…
『ガチャン』と玄関を勢いよく開ける。鍵も閉めずに、俺は太陽の下、いつもの道、そして新たな始まりの1歩を進み出した。
途中、決心が揺らいだ時もあった。また明日行けば良い、また今度って。でも、これは誰に決められたでもない、俺が決めたことだ。もう振り返らない。
学校に到着した俺は、靴を履き替えて前だけを向いて教室への廊下を歩く。
そして、教室の前で深呼吸をする。すごく怖い。でも、小雪が一緒にドアを開けるのを手伝ってくれている気がした。
俺は、教室のドアを一緒に開ける。
なんだか懐かしい光景だった。初めて会った日も、望月さんはこうして誰もいない教室で富士山を眺めていたな。
「小雪」
そんな望月さ…いや、小雪に3年前から変わらない、いつもと同じように声をかける。
二人で1つだから。
「はい…湊音くん…」
二人駆け寄って、お互いを強く抱きしめる。
ずっと口も聞かないでひどい事をした。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
でも、それと同じくらいこんな俺を受け入れてくれる。そんな人もいることが嬉しくってたまらなかった。
幸せだなって思った…。
「おまたせ小雪」
「うん…おかえりなさい。湊音くん」
俺は、望月小雪という一人の女の子から、二つの愛の意味を教わったんだ。
人を愛すること。そして永遠の愛を…
だから俺が、教わった愛を2人に返していくんだ。
人を愛すること。そして永遠の愛を…君に。
最終話 「人を愛すること。そして永遠の愛を...君に」矢野湊音。Coming Soon...
1月17日。19:15 公開...
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