第38話 8月31日...「大切な君とのページ」
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8月31日...
夏休み最後の日。今日は、約束していた夏終わり最後のデートだ。
最近は、すごく不安定な天気ばかりだったが、肝心の今日が晴れで良かった。
今は、いつもの朝の小雪のルーティーンに付き合って、朝の準備を終え小雪と一緒に歯磨きをしているところだ。
あの出来事以来、小雪は別にいつも通りだった。無理に繕っている感じもしない、いつも通りの元気な小雪だった。
でも、何かを隠していることは拭いきれていないそんな感じだった。
「それで、今日はどこにいくんだ?」
今日の予定について何も知らされていないので、気になってそう尋ねる。
今回のデートは小雪が誘ってくれたので、小雪プランでデートをする予定だ。
「んー、適当かな」
「適当!?適当って、夏最後なのにいいのか?」
いつもなるべく色濃い時間を過ごしたい小雪は、目的を持って出掛けることが多かった。とても珍しいなと思った。
「いいのいいの。適当の方が、思いもしない経験に出会えるって、小学校の時先生が言ってたもん」
「まあ、小雪がいいならいいんだけどさ」
口に水を含んで、口内の汚れをしっかり流す。
「はーあ、明日から地獄の学校がスタートだよ。最悪だ」
思わずそう呟いてしまう。明日から学校が再開すると考えるとテンションがおのずと落ちてしまうが、今日は小雪とデートなので学校前の夏最後のデートを楽しんでいきたいと思う。
夏が終わっても小雪とはずっと一緒に入られるから、学校が再開しても前よりはマシかなとも思うが嫌いなものは嫌いだ。
「もう、学校の話しないでよー、テンション下がるでしょ」
「ごめんって、つい。今日はこれからだもんな!。さーて、何しよっか?」
「ふふ、湊音なんだかテンション高いね」
「そりゃそうだろ。夏最後のデートは全力で楽しまないと。明日のことは、明日の俺たちにまかせよう!」
「そうね。明日…か」
小雪が、鏡に映る自分の顔を見ながらそう呟いた。
「どうかしたか小雪?」
「いや、なんでもないよ」
小雪も俺に習って、口の歯磨き粉を水で流す。
「よし、デートいこっか」
「おう」
そうして家を出た俺たちが最初に向かったのは、いつも行っているマスターの経営しているカフェだ。
「マスター、来たよー」
小雪が、元気に手を振りながら挨拶する。
「小雪ちゃんに湊音くん、いらっしゃいませ」
この夏、頻繁にこのカフェに通っていたから、マスターにも名前を覚えていただいて、すっかり常連だ。
「いつもので大丈夫かい?」
「今日はねー、いつものと、これと、これ。あとこれの、トッピング全部乗せで!」
小雪は、いつものパンケーキとコーヒーに、パフェとケーキ、スコーンといつも頼んでいないスイーツをたくさん指さして注文する。
「俺はいつもので」
俺は、いつも通りカプチーノとチョコパフェを注文する。
「ありがとうございます」
マスターが、早速コーヒーの豆をザリザリと挽き始める。
そうして数分が経ち、注文したものが全て揃った。
「食べ切れるのかこれ?」
目の前には、机いっぱいにたくさんのスイーツが置かれる。
「美味しいスイーツなら、よゆーよゆー。そうだ、湊音写真とろ!」
「俺も入るの?」
「うん。今日は一緒に撮ろ」
そうして、机いっぱいに並ぶスイーツと一緒に、思い出を刻むようにシャッターを切る。
「よし、食べよ」
写真をたくさんとって満足した小雪は、クリームがたくさん乗ったパンケーキを一口。
「んー、おいしい。ほっぺが蕩けちゃう」
夏最後なのに、いつも行っている場所で良いのかという気持ちはあった。
でも、ほっぺをおさえながらとても幸せそうな顔でスイーツを食べる小雪を見ていると、そんな気持ちはすっかりなくなっていた。
これからもずっと一緒なんだ。これが本当に最後の夏というわけじゃないんだから、これで幸せだと思った。
そして、注文したスイーツを全部食べ切って、お皿をまっさらにした。
結局、流石に頼みすぎたとのことなので、スイーツは全て半分こして食べた。やっぱりこうなるのかと思ったが、色々な味を楽しめた小雪は満足したとのことなので良かった。それに、そんな既視感のあるいつもの光景がおかしくて小雪と笑えたことも、思い出として大切に記憶の中にしまっておこうと思った。
そしてスイーツを楽しんだ後は、小雪に連れられて富士大石ハナテラスというところに来た。
ここは白壁の建物が並び、植物や川のせせらぎが聞こえてくる時間がゆったりとした落ち着きのある洒落た場所だ。
ここもこの夏小雪と来た場所だった。でも、前は付き合う前だったので、カップルが多いいここに来た時は、小雪のことが好きだった俺は、どうしたら良いか分からず過ごしていたが、付き合った今では堂々と手を繋いで歩けることに、なんだか感動してしまう。
今は、テラス席で富士山を眺めながら、前も食べたきな粉のパフェと、いちごが沢山乗ったパフェをそれぞれ半分こで楽しんでいる。またまたスイーツだ。とても美味しそうな顔で食べている小雪を見ていると、食いしん坊で可愛いなと毎回思う。
そんなことを考えていると、突然大きな白い毛並みの犬がどこからともなく現れて小雪に尻尾を振りながら飛びついてくる。
「うわー、なにこの子おっきい。きゃ、くすぐったいよー」
小雪の顔をぺろぺろと犬が舐める。
そんな小雪は笑いながら、「どこから来たのー?」と犬にかたりかけるように大きい犬に話しかける。
「こら、マメだめでしょ」
そんな時、犬の名前を呼びながら飼い主らしき老夫妻が小走りで駆け寄って来る。犬は、飼い主が戻ってきたのに気づいたように駆け戻っていく。
「すみません」
「いえ、全然大丈夫ですよ。名前、マメちゃんっていうんですか?」
「はい。マメです」
「わー、マメちゃんこんにちは」
小雪がしゃがんで犬をやさしく撫でる。俺は、犬ではなくそんな小雪を撫でたくなるが我慢する。
「わー、なにーマメちゃん、可愛いねー」
そんな大きい犬に、また飛び乗られて無邪気に小雪が笑う。
「あちらの方は恋人ですか?」
そんな小雪と犬が戯れているのを愛おしく後ろから眺めていると、紳士的なお爺さんが突然そう話しかけてくる。
「はい。私の一番大切な人です」
「そうなんですね」
「私は…俺は、小雪になにもあげられていないと思うんです。守られてばっかりだ。どうやったら小雪を、支えられるような男になるのでしょうか?」
俺から見て、この夫妻はとても幸せに満ち溢れている、そんな感じに見えた。
だから、唐突にそう胸の内に秘めた不安を、この人に聞いてほしいと思った。
小雪は、俺にたくさんの幸せをくれた。何もない日常に、彩りを元気をたくさんくれた。
でも、そんな小雪に俺はなにをあげられているんだろうか。何もあげられてないじゃないか。
こんな俺は、小雪を幸せにできるんだろうか…。
「守られてばかりでもいいんです」
「え?」
「その人を愛しているからこそ、人は守りたいって強く思うんです。人を愛するということは、2人分の人生を1つにする事。だからお互いが支え合って一緒に人生を歩んでいくことが一番大切なのです」
紳士的なお爺さんは、小雪と老妻を優しい目で見つめる。
「だから、たくさん愛してあげてください」
「はい…。ありがとうございます」
そうして老夫婦と挨拶して別れを告げる。
「小雪、好きだよ」
「ちょ、なに急に」
「なんとなく…なんとなく言いたくなったんだ」
「私も、その、好きだよ」
「うん。ありがとう。なんか、ちょっと照れるなこれ」
「だね」
二人で、思わず見つめ合ってしまう。
「わー、とりあえずこれ食べよ。ほら湊音も、アイス溶けちゃう」
小雪にがそんな変な間から脱するように、パフェを差し出す。
「小雪、あーんして」
「本当にどうしちゃったの湊音」
「別にー」
小雪に愛された分、俺も小雪を愛する。人と人生を共にする事は、そういう意味なんだと教えてもらったから。
明日も、明後日も、俺たちは共に並んで歩んでいくんだ。
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