第37話 8月26日...「支えてあげられなくてごめんな」

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8月26日…

あの風呂での出来事があってから、小雪は俺を誘うようなことを言わなくなった。俺の想いが伝わったみたいで、小雪はいい子だなと思った。

でも、最近は胸をわざとらしく押し付けてきたり、風呂では身体のラインを強調するように俺の視界に入れようとしてくるので、俺は理性との激しい戦いを繰り広げている。

そういえば昨日の夜、俺の声を呼びながら布団の中で何かもぞもぞしていた気がするが、本人は俺が気づいていないと思っているので見なかったことにしよう。小雪は、やっぱり悪い小悪魔だ。

そんなことを考えつつ、外のうるさい音が耳に入り目が覚める。

時刻は、11時20分。小雪の家に来てもう半月以上が経った。平凡でも毎日が幸せな日々だった。

俺は、この家にすっかり心を許してリラックスしていたのか、たくさん寝てしまったみたいだ。

最近にしては珍しい天気に驚きカーテンを開ける。窓から空を見上げると、今まで青で染まっていた空も、今日は灰色だった。雨が際限なく降り注いでいて道路は雨水でいっぱいだ。

約1ヶ月ぶりの雨だった。

いつもは俺が起きるまでベッドの中で待っている小雪もいないみたいだ。

珍しいこともあるもんだなと思い、小雪を探しにいく。リビングのドアを開けて、中を覗くと小雪が立ちながら何かのノートを読んでいた。

「小雪、おは…」

そんな小雪を眠い目をこすりながら見ていると、次の瞬間、小雪がそのノートを何か恐ろしいものをみたかのように手から床に落とし、腰から床に崩れ落ちる。

「小雪!?」

俺は、突然のことに何が起こったかわからなかったが、反射的に小雪のもとに向かっていた。小雪の肩を抱いて、倒れた小雪を支えるように起こす。

「なに…あれ、嘘…どういうこと」

「どうした小雪!?」

「いや、嘘よ…私が?そんな、いや、いやよ」

「大丈夫、俺がここにいる、ここにいるから」

小雪は、まるで何か恐ろしいものを見たかのような表情をして頭を抱えて何かを呟いていた。

小雪は、瞳孔がすごく揺れていて軽いパニック状態だった。それは、俺があの日記の後ろのページを見た時と同じ状況だった。

俺は、あの時の小雪と同じように、背中を撫でて落ち着かせる。


数分して小雪の呼吸が正常に戻ってくる。

「あぁ、湊音…」

「小雪、大丈夫か?」

「今はもう大丈夫。ありがと」

そう言って、お尻をはらって立ち上がる。

「なにかあったか?」

「なんでもないよ。心配しないで」

「なんでもなくないだろ?。言ってくれないとわからないよ」

いつも元気な小雪のあんな恐怖に染まったような表情初めてみた。少なくともただ事ではないはずだ。

「なんでもないから」

小雪はそう言って、先ほど落としたノートを拾ってリビングを後にした。

あれは、多分あの日記だ。小雪は、頑なに「なにもない」と言った。でも絶対おかしい。小雪は何かを隠している。


そして、その夜からはまるで朝のことがなかったかのようにいつも通りの小雪だった。

でも、ずっとそばにいた俺だからわかる。いつもの小雪と比べると、少し空元気という感じだった。

「ねえ小雪、なにか俺に隠していることないか?」

小雪は、俺が起きる前にあの日記を見て、あんな状況に置かれてしまった。小雪のあんな表情、それはもう他人事ではない。辛いことは俺も分かち合いたいと思う。だからこそ何があったか知らなければならない。

「んー?別になんもないよー」

小雪は、サラダを食べながらとぼけた顔でそう言うが、絶対に何か隠しているはずだ。

「何もなくないだろ、朝のこととか」

「あー、あれは貧血でふらふらしただけだから」

「そんな感じじゃなかっただろ」

「本当に大丈夫。何もないから」

「本当か?」

「うん」

「そうか…」

俺にも言えないこと。

ただ事じゃないのは分かっている。でも言いたくないのなら、それは仕方のないことだ。言いたくないことを無理やり言わせるのは良くない。

「…」

気まずい沈黙が食卓に走る。

「ねえ、湊音。31日空けておいて。夏休みの最後は、デートにしよ」

そんな沈黙を切り裂くように、小雪が元気にそういう。そんな約束をする小雪は、無理に繕うような感じもしない、いつも通りの元気な小雪だった。

「わかった。空けておく」

でもどこか、悲しげな表情も混ざった、そんな笑顔だった。

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