第36話 8月22日。「これも小雪らしいな...」
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8月22日。
「おはよ、湊音」
「ふぁー、おはよ」
あくびをしながら、隣で寝そべっている小雪と朝の挨拶を交わす。
「ね、いつものちゅーしよ、ちゅー。はい、ちゅー」
小雪が、目を瞑ってキスを待つような顔をこちらに向けながら迫ってくる。
「わかった、わかった」
「ん…」
あの花火の出来事から、俺たちは付き合うことになった。
この3年間、小雪が突然姿を消して、なんで想いを伝えなかったんだろうという後悔でいっぱいだった。この想いをずっと心の内に抱えて生きていかなければいけない、もう2度と会えなかったらどうしようとも思った。
だから、3年越しに想いを伝えられて、両思いだって知った時はすごく嬉しかった。
幼馴染から恋人という関係になってから、小雪は何かが吹っ切れたかのように俺にキスを度々求めてくるようになった。
小雪は、くっつくことも大好きだったが、キスはもっと好きだった。本人によると、ずっとキスをしたかったけどハグで我慢してたから、その分のキスをたくさんするということみたいだ
俺も、最初は恥ずかしかったし、小雪が俺のことをこんなにも思ってくれていることにとても驚いた。けど、最近では数十分に一回の感覚でキスを求められているので、もう日常に溶け込んできていた。しかし、まだまだ嬉しさより恥ずかしさが勝っているし、慣れるのには時間がかかりそうだ。
「小雪、くるしい…」
「あ、ごめんね、つい。」
最近は、そんな俺の葛藤も知らず、キスをするのが大好きな小雪は、割とディープなものをすることが増えてきた。まだ付き合って5日目なのにだ。一度、始まるとなかなか唇を解放してくれないので、恥ずかしさで頭が爆発しそうになる。
それに、興奮が抑え来ていないのがバレないように腰を引くのも大変である。女の子の小雪は、この男の葛藤に多分気づいてないのだろう。とはいうものの、俺もずっとしたかったことだし嬉しいことには変わらないけどな。
今日のキスに満足した小雪から解放された俺は、ベッドから降りて、カーテンを開ける。
窓一杯に部屋に光が差し込む。眩しくて、思わず目をすぼます。
「うわ、今日もいい天気だなー」
「だねー。んー、本当にいい朝」
小雪が、ぐーと身体を伸ばす。
外からは、小さい子が遊ぶ元気な声と、鳥の囀りが聞こえてくる。本当に平和だなと感じ、しみじみとしてくる。
夏が入ってからというもの、ずっと雲ひとつない晴れが続いている。天気の神様も夏休みで上機嫌なのだろうか。少しおかしな気もするが、とにかく晴れなのはすごくいいことだ。
そんな雑談をしながら、二人でリビングに向かって当たり前のように並んでソファーに腰掛ける。
「小雪は、この夏、他に行きたい場所ある?」
もう夏も後半で、夏休みの終わりに差し掛かっていた。
小雪は、親が忙しくて幼い中学生の頃はあまり家から出られなかったらしい。だから、高校生になってやれる事も増えたし、小雪がやりたいことは全部やらせてあげたかった。
「そうね、海も行ったでしょー、お祭り行ったし、猫カフェもいけたし、スカイツリーも見れた。それに、湊音と付き合えた」
小雪が、数を数えるように指を折りながらこの夏の思い出を振り返る。
「今年の夏はもう大満足かな」
「そっか。全力で夏楽しめた?」
「うん。すっごい楽しかった。本当に湊音のおかげだね。ありがとうね。大好き!」
「うわ、こら小雪ー」
隣に座っていた小雪が、突然俺に乗っかてきて抱きついてくる。
「あとは、湊音とこうして家でゆっくりしていたいな」
「じゃあ、そうするか」
「うん、そうしよ。じゃあ、とりあえずちゅーしよ」
「おまけ程度でキスを迫るな」
「えー、しないの?」
「いや、するけどさー」
「なんだよー、湊音もしたいんじゃんか」
そうしてまたキスをして幸せな朝を過ごす。 今までは、学校に隕石がふりますようにとお願いしていた新年のお願いも変えようかなと思う。
ずっとこの幸せが続きますようにと。
そんな朝の出来事はすぎ、一日を小雪と幸せに過ごし、今は夜ご飯を食べ終えてお風呂に入っているところだ。
今日も、小雪と一緒に風呂に入っている。小雪は、俺が恥ずかして一緒に入るのを拒んでいることを知っているのに「イヤなの?」といつも少し悲しい顔で聞いてくる。そう言われたら、本当は一緒に入りたい俺は拒否できないことを知っているんだ。
小雪には、いつも揶揄われてばかりだから、なんとか男らしいところも見せていきたいところだ。
「なあ、やっぱりせめてタオルくらいはおって風呂はいらないか…?」
小雪の髪を優しくシャンプーで洗う中そう言う。というか、毎回言っている。
風呂には、いつもバスタオル1枚も羽織らないで入っている。
小雪は、バスタオルを羽織るのが面倒で嫌いらしい。だから、自分だけ裸なのはずるいから俺もバスタオルを羽織ってはいけないみたいだ。
正直、恥ずかしいし、あそこの理性を保つのが大変だから、最終手段でバレないように隠すためにもタオルが欲しいところだ。
今までも、生理現象で息子が元気になってしまうことが度々あったが、手で隠してなんとか耐えてきた。いつも小雪がその手を引っぺがそうとしてくるから困ったものだ。
「だって、私たち付き合ってるんじゃん」
「それはそうだけど…」
「なにー、私のおっぱいが大きいから恥ずかしいの?」
「そ、そうだよ。目のやり場に困るんだよ」
「もう湊音のものなんだから見てもいいよ。なんなら、触ってもいいんだよ。湊音が、おっぱい大好きなのは知ってる」
「揶揄うなよ。俺は、一様男だぞ…」
「私は本気だよ、湊音ならいいよ」
そんなセリフを掻き消すために『じゃー』とお湯をいっぱい出して髪のシャンプーを落とす。
「ねえー湊音、聞いてる?」
「聞こえなかったー」
「もう…」
小雪が俺の足の間に入るように、湯船に浸かる。
「ねえ、湊音。湊音は、私にとって特別なんだよ?何してもいいんだよ。私を好きにしていいの」
「俺も、小雪が特別だ」
「じゃあ、なんで手を出してくれないの?。特別なら…えっちしたいって思うでしょ?私は思うよ。湊音ならいいって思える。それに、湊音はしたいって思ってるじゃん」
小雪の身体に触れて、俺のそれはもう隠せなかった。
「小雪、こっち向いて」
そんな小雪の唇に、俺からそっとキスをする。
「そう言ってくれて嬉しい。俺もしたいって思う。大好きな人とできたらどれだけ幸せだろうかって。でも、俺たちはまだ高校生だ。好きな人だからこそ大切にしたいんだ。俺はそうしていくって決めたんだ。だから少し待ってほしい」
ごめんは言わない。
そこまで進んでしまったら俺はもう抑えられなくなる。俺たちはまだまだ未熟で若い。それに小雪は女の子だ。
好きな人だからこそ大切にしていきたい。若気の至りで、そういうことをしたくないんだ。そう言うことは、お互いが心の整理をして正しい時にすると決めたんだ。
これは俺のわがままだ。そんな俺でも良かったら、ずっとそばにいて欲しい。
「そっか…」
小雪は、少し顔を俯かせていた。
「じゃあ、私待ってるね。ずっとずっと」
顔を上げて笑顔で小雪がそういう。
「うん。ありがと」
そう言って、電気のついていない天井に水面が反射した浴槽で、さっきとは違う長いキスを交わす。
どのくらいキスをしたから時間も忘れるくらいに。
「こんなことしてたらのぼせちゃう」
「だな」
これが幸せなんだって。若いなりにも気づいた。
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