第21話 「くっつくのは良いけど絶対わざとだろ」

  7


「それで、あれはどういことなの?」

紅茶を飲んで落ち着いた俺たちは、今日の2つ目の本題について話し合う。

『あれ』というのは、おそらく二人の記憶の食い違いのことだろう。

小雪は俺が消えたと言ったが、俺の記憶だと小雪が3年前に突然姿を消していた。お互いの記憶が矛盾しあっていた。

「あの…その前に近くない?」

小雪は、俺の隣に座って体をピッタリとくっつけている。

「何言ってるのよ。昔もこのくらいだったでしょ?」 

「いや、昔は小さかったから気にしなかったけど、今はお互い大人になったわけだし、距離感はしっかり測るべきといいますか…」

ショートパンツから、見えるすべすべの生足が直に当たっている。その視線に気がついたのか、小雪は悪い笑みを浮かべている。

「な~に、湊音意識してるの?。昔は、全然平気な感じだったのに。湊音もえっちになったね?。私は嬉しいよ。湊音がついに大人になったと思うと」

そう言って、胸をわざとらしく押し付けてくる。もう、昔のくっつくとは訳が違う。3年ぶりに会って、昔の小雪と中身は全然変わっていなかった。でも、身体の方は3年分の成長をして昔とは全然違うものだった。

「ほら、この前の喫茶店のことについて話すんだろ」

身体を押し付けてくる小雪から離れるように、ソファーを横移動しながら本題に触れる。

「あー、もう。でも、そうだったね」

そんな小雪から離れるように横移動している俺を追うように、くっつこうとしながら小雪は思い出すようにそう言った。

小雪は、人にくっつくのが癖だった。昔から、いつもベタベタとくっついてくるし、外でも相変わらずだった。

人間の癖というものは、何年経っても簡単には治らないものだからしょうがないけど、そんなにくっつかれると色々当たって恥ずかしいのだ。

「俺目線だと、3年前いつも通りあの公園に行ったら、いつも来ていた小雪が来なかった。1日くらい来ない日もあるかと思ったんだ。でも、1週間くらい公園に毎日行ったんだけど、小雪は来なくて、それから3年間行方不明ってこと」

お互いの家のことは知らなかったので、俺たちの集合場所は、おのずとあの公園になっていた。

「それって、夏休みの終わり頃の話でしょ?」

「そうだな」

確かに、小雪がいなくなったのはその頃の話だ。

「私も、その頃に湊音がいなくなったよ。それで、湊音と同じ感じで公園で待ってた。でも、それ以降3年間姿を表さなかった。私目線だと、湊音が突然いなくなったことになるね」

やはり、お互いの記憶にはなぜか矛盾が生じていた。

俺たちの近所には、いつも集まっていた公園以外、他の公園はなかった。だから、お互いが違う公園で待っていたという可能性はない。そもそも、いつも同じ場所で遊んでいたから間違えるはずがないし、俺たちにとってあの公園は大切な場所なのだ。

「やっぱり、おかしいね」

小雪が、不思議そうに言う。

「そうだな。記憶が食い違う」

「湊音が、頭でもぶつけたんじゃないの?」

「真面目な話なんだが」

「ごめんごめん。冗談じゃん」

勘弁してくれ。今は、お互いにとって3年もの長い間会えなかった原因がわかるかもしれない大切な話の途中だ。

今回の謎は、まるで公園が2つに分身したみたいな話だ。

現実的に考えるとお互いの姿を消した時期が同じで同じ公園を探していたから、どちらかの記憶が間違っているということになる。そうでもしないと、記憶がこのような形で食い違うなんて物理的に無理な話だ。

でも、俺の記憶は絶対に正しい。小雪が突然姿を消したあの夏のことは忘れるはずもない記憶だ。だからこそ、高校入学の日、望月さんの名前を見てあんなにも驚いたのだ。

「小雪が頭をぶつけたんじゃないか?」

「真面目な話なんですけどー」

でもそれは、小雪も俺と同じ感じなのだろう。小雪の記憶も正しいはずだ。

となると、あと残っている可能性としては、小雪が嘘をついていることくらいか。でも、小雪が嘘をついている可能性はないと思う。それに、小雪には嘘をつく動機がない。

初めて会った時、俺が姿を消したことに対してとても怒っていた。小雪があんなにも怒っているところは初めて見た。

小雪は、いつも元気でやさしい女の子なのだ。それに、小雪は嘘をつくような人じゃない。それは俺が一番わかっていた。

「異世界転生ってこと?」

「そうだね。転生だね」

そうふざけて言い合う。そんな現実的にあり得ないことが頭に浮かぶくらい、今回の謎も、物理的にありえないことだった。

それに、3年前に起こった事というのも不思議だ。

立て続けに不思議なことが起こっている今なら『あー、また不思議なことが起こったなー』と、まあ納得がつく。

でも、3年前の話だと、今ある情報でしか探ることができない。過ぎたことは変えようがないし、調べようもないからだ。

となると、今起こっている謎と何か関係があると考えるのが先決なのかもしれない。情報がない今だから、少しの可能性も大切にしていこう。そう思った。

とりあえず、今はどうしようもなさそうだ。小雪とは再会できたのだ。そんなに急ぐことでもないか…。

そんな中、小雪が何かをひらめいたのか突然立ち上がる。

「そうだ」

「わからないなら調べるまででしょ」

俺は、その意味が分からず不思議な顔をする。

「行くのよ。今から」

「どこに?」

「私たちの思い出の公園に」

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