第20話 5月4日。「また昔みたいに」

   6


俺は、自分の部屋で起床した。昨日は、確かに望月さんの部屋で寝た。あれほど印象深い出来事を忘れるわけない。

もちろん、ドキドキしてしばらく寝られなかったわけだが、望月さんはずっと俺の腕にしがみついたまま寝ていたはずだ。

だから、寝ぼけて家に帰ってきてこのベッドで寝た可能性は無くなった。となると、また不可思議な現象が起きたわけだ。

一旦落ち着こう。2日続きに不可思議な事が起きて、この手の謎にはなれてきた。

とりあえず、現状確認のために望月さんの家に行こう。幸い今日は、土曜日なので学校は休みだから望月さんも自宅にいると思う。そうと決めた俺は、足早にベッドから出る。時間は有限だ。

身だしなみを整えて、『ガチャン』とドアがしっかり閉まっているか確認して、家を後にする。

外に出ると、今日も昨日に続き雨だった。俺は、傘をさして駅に向かう。


富士山駅から電車に乗り込み、望月さん宅の最寄駅、河口湖駅に到着した。

望月さんの家は、河口湖駅から歩いて数分と、学校も近くて駅も近いというかなり立地の良い場所だ。

そんなこんなで、望月さんの家の前に到着して玄関のインターホンを押す。

「はーい」

玄関越しに、望月さんらしき声が聞こえる。『ガチャン』と玄関が開く。

「おはよう。望月さん」

今日のことについて話をする前に、とりあえず挨拶をする

「湊音…。その…昨日は、ごめ…」

望月さんは、なぜか申し訳なさそうな顔をしてもじもじとしている。いや、この子は違う…小雪?

「小雪…?」

「え?」

「小雪なのか!?」

最初は、わからなかったけど話し方、雰囲気が小雪だ。今回は、望月さんではなくて小雪だ。なんで小雪が望月さんの家にいるんだ…。

俺は、望月さんの家に小雪がいることの驚きで立ち尽くしてしまっていた。

何やってんだ俺は、小雪が目の前に現れたのだ。とりあえず今することは、謝ることだ。

「昨日は、その、ごめん」

「あの時は俺が完全に悪かった。本当にごめん」

あの時は、小雪の長い間苦しめられた気持ちを理解してあげられていなかった。俺は、小雪に会いたい一心で、自分の気持ちしか見えていなかった。

「とりあえず、濡れちゃうから入って話そ」

小雪の跡を追う形で、望月さんの家に入る。


「そこ座ってて」

そう言って、指をさされたソファーに座る。小雪は、台所で紅茶を垂れている。

周りを見渡すと、昨日泊まった望月さんの家とは、全く違うものだった。

壁には、俺の知らない絵が飾られていたり、ソファーの形も望月さんの家とは違っていた。

場所は同じだが、内装は全くの別物だった。

前回は、いきなり小雪が現れて、謎について考える暇がなかったが、なんとなくこの謎について少しわかってきた気がする。

あとで、確認したい事がある。帰りに駅弁でも買いに行くことにしよう。

そんなことを考えていると、小雪が俺の隣に腰かけて机に紅茶を二つおく。雨のしとしとという音と、時計の音が部屋に響きわたる。

「小雪、昨日は悪かった」

小雪は、俺の方を静かに見ている。

「小雪の辛い気持ちを全然考えられていなかった。昔の約束を破った、俺が馬鹿だった…」

こんな事では、許されないのはわかっている。それほどまでに、俺は小雪を傷つけた。だから、今はとにかく謝ることしかできなかった。

「私も急に怒っちゃってごめんね。私もずっと湊音のこと探してて、3年ぶりに会えて嬉しすぎて、おかしなこと言っちゃった。ずっと会いたかった、会いたかったよ…湊音」

小雪に、ぎゅっと抱きよせられる。そのハグは、優しくてとても懐かしい温もりだった。

なんでそんな簡単に受け入れられるんだ。3年ぶりに再開して、自分を否定されて。なんで、なんで…

「ちょいちょい、なんで泣いてるのよ」

大切な約束を破って小雪を傷つけたのに、まだ俺と一緒にいてくれるという、小雪の優しさに自然と涙が溢れる。

それと、3年ぶりに昔のように話せて嬉しかったのだと思う。

「本当に、許してくれるのか。俺は、取り返しのつかないことをしたのに…」

「本当にもう良いってばー。これは、仲直りのハグだよ」

昔の、すぐくっつく癖も変わってない。小雪は昔のままだった。その優しさも、昔と変わらない懐かしい暖かさを感じた。

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