第16話 5月3日#2「君との違う1日」

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5月3日#2

「ザー」という雨音がうるさくて、目が覚める。

昨日の疲れがしっかり取れているのか体が軽い。よく眠れたみたいだ。

タイマーは、自分で消すまで鳴り止まない仕様なので、今日も音がなる前に起きてしまったみたいだ。早起きはいいことだ。

とりあえず、体をベッドから起こしてカーテンを開ける。先ほどから雨音がしていたが今日は残念ながら雨のようだ。

雨の富士山は、いつもとは違ったしんみりとした雰囲気を纏っていた。朝の霧と相まって、雨の日でも綺麗だ。

そんな富士山を横目に、スマホを手に取る。

昨日1日会えていなかった望月さん、詩乃や叶翔からなにか連絡が来ているかもしれない。

そう思い、電源ボタンを押してスマホの画面を表示する。しかし、スマホは昨日と同様に沈黙を貫いていた。

またかよ…。スマホの充電が切れていたのだ。

でも、昨日と同じミスをしないように寝る前に充電コードを刺したか確認したはずだ。しかし、充電コードは床に転がっている。

昨日と同じパターンなら、今日も遅刻だ。

俺は、時間を確認するためリビングに移動する。案の定、壁にかけられた時計の針は十一時を指していた。また、遅刻確定である。

いつもなら、遅刻の場合、諦めるものの少し焦って準備をしていた。

でも、今回はいつもと状況が違う。小雪とマスター以外は俺の姿が見えない。そうなると、学校に行っても誰にも俺の姿は見えないはずだからいつ登校しても大丈夫なのだ。それどころか、もう学校に行かなくても良くなったくらいだ。

まあ、それくらいしかメリットがないが。でも、今日は小雪を探すためにも学校に行くことにする。

とりあえず、昨日風呂に入り損ねたのでゆっくり風呂に入る。


風呂から上がった俺は、テレビをつけてソファーに座る。学校に行かないでテレビを見ている時は、何だかドキドキするな。いつもは学校にいる時間なので、普段は見られないニュースがやっていた。

俺は、呑気にテレビを見ながらドライヤーで髪を乾かす。

「こんにちは。こちらの現場からは、今日のお天気を紹介します」

テレビでは、お天気コーナーがやっていた。

綺麗なお姉さんが天気について紹介するみたいだ。不覚にも画面をじっと見つめてしまう。

「今日、5月3日は、全国的に雨空が広がるでしょう」

え、今なんて言った?思わず、ドライヤーの電源を切る。

5月3日と聞こえた気がする。

衝撃の出来事がたくさん起こった昨日のことは忘れもしない。5月3日は昨日で、今日は4日だ。ニュース番組が日にちを間違えることもあるんだなまあ間違えただけだろう、と深くは考えずドライヤーの電源をつけて引き続き髪を乾かす。

髪をある程度乾かして、ドライヤーの電源を切って机に置く。そんな時、充電していたスマホの起動音が寝室から聞こえてくる。

日にちをスマホで確認するために寝室に戻る。早速スマホを手に取り画面を表示する。

「え?」

5月3日。スマホのロック画面には、そう表示されていた。

先ほどのニュース、それにスマホの日付、2つとも3日を示していた。

まさか、今日は本当に3日なのか…。非現実的なことが立て続けに起こっている今、そう思い始める。

正確なカレンダーが、2つとも間違っているなんてことは流石にないはずだ。そうだ。

昨日、3日に日記を書いたはずだ。あれを確認すれば昨日が3日で、今日が5月4日だと証明できる。

床で寝ているバックを無理やり起こして、日記を書いたノートを取り出す。ノートの日記を書いたページを開く。

「まて、本当に何が起こっているんだ…」

訳がわからなくなり思わず独り言が漏れる。

昨日日記を書いたページは、真っ白だった。ノートは、最初から何も書かれていないような状態だった。

「いや、そんな訳はない。確かに、昨日このノートに書いたはずだ」

何かの間違いかと思い、ノートをペラペラとめくる。

しかし、どこのページにも昨日の日記はおろか、全て白紙の状態で、文字が消された痕跡もなかった。

というか、昨日帰ってきてすぐに寝たから、ノートには一度も触れていないはずだ。

そう。まるで、昨日のことが全てなかったかのように昨日の日記は消えていたのだ。

そもそもニュースが日付を間違えるなんてあるはずがなかったんだ。全ての国民が見る番組であり、間違えないように入念にチェックされているはずだ。

ノートを見て、俺の中の推測は確信に変わった。信じられないが今日は、5月3日だ。

そんな困惑と共に、3日がまた幕を開けた。

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