第12話 「俺と小雪の始まりの話」
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望月さんになら小雪の事を話してもいいと思える。そのくらいに、望月さんは俺にとって特別な存在になっていた。
それに、これは望月さんに話しておくべきだ。それに、本人が一番知りたがっていると思う。
「聞きたいです」
「昔、望月さんにそっくりで名前まで一緒の幼馴染がいたんだ」
小雪は、ある日突然現れた。
俺は、いつも通り公園で1人遊んでいた。
そうしたら小雪が突然話しかけてきて、引っ越してきたから一緒に遊ぼって突然言ってきた。
それが俺と小雪の出会いだった。
妹が生まれてから、親に見向きもされなくなってひとりぼっちのやさぐれた俺に、小雪は優しく手を差し伸べてくれた。
小雪と出会って、俺の世界は明るく色鮮やかになったんだ。
昔から人と関わるのが苦手で、一定以上の仲にはなれなかった。そんな俺と一緒にいたいって言ってくれる人ができた。
毎日がとにかく楽しかった。ずっとそばに居るって約束もした。
でも、ある日小雪は突然姿を消した。俺になにも言わず、なんの前触れもなく。
それから3年間、まるでこの世界から姿を消したみたいにどこを探しても小雪は見つけられなかった。
だから、高校に入学して望月さんの名前を見つけた時はとても驚いた。
3年ぶりに小雪に会えると思った。初めて望月さんのことを見た時、小雪だ、小雪にやっと会えたって思った。
だから小雪じゃないってわかった時は、正直ショックだった。
小雪と会えたら、何を話そうか何をしようかってずっと考えて生きてきた。
でも今ここにいるのは望月さんだ。小雪じゃない。
俺にとって、小雪は生きがいだった。でも、そうして生きてきた俺は、いつのまにか縛り付けられてたんだ、小雪という存在に。
だから…もう小雪のことは忘れる。今は、望月さんとの日々がひたすらに楽しいから。
望月さんは、俺の話を真剣に聞いてくれていた。二人だけの車内に電車の走行音だけが響く中、望月さんがゆっくりと口を開く。
「小雪さんと私が同じ名前で、見た目も似ているのには何か関係があるのかもしれない。湊音くんとは、高校で初めてお会いしました。昔にあった覚えはやっぱりないです。なにもわからない。でも、これだけはわかります。小雪さんが突然消えて湊君はとても辛かったこと」
「小雪さんは突然いなくなったかもしれない。でも、思い出はずっと湊音くんの中に残っています。だから、小雪さんのことを忘れるなんて言わないでください。縛り付けられていたなんて言わないでください。次、会った時会わせる顔がなくなりますよ」
望月さんが、優しい顔でそういう。
「あはは、そう…だな」
俺の頬には、雫がしとしとと流れていた。
このことを人に話せて、雨上がりのような晴れた気持ちだった。望月さんを慰めるためにした話なのに、結局、俺はまた望月さんに助けられている。初めて小雪の話をした。今となっては辛い記憶だったからなるべく思い出したくはなかった。
でも、小雪との思い出は、辛い記憶に対して、楽しい記憶がたくさんある。やっぱり忘れたくない。小雪との思い出を無かった事にするなんて俺には無理だ。だって小雪は、俺の一番大切な人だから。
だから、望月さんに言われた通り、心の中で大切に保管していきたいと思う。
初めて話せたのが望月さんでよかった。そう思った。
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