第11話 「君になら話しても良いかな」

  9


そうして目的の買い物を終えた俺たちは、ショッピングモールを後にする。

「今日は、付き合ってくれてありがとうございました」

「いいんだよ。楽しめた?」

「はい!初めての都会、すっごく楽しかったです」

「よかった」

「もうやり残したことはない?」

まだ、やりたいことがあれば遠慮なく言ってほしい。ここまで来たらとことんやろう。

「もう大満足、本当楽しかったです。ありがとうございます湊音くん」

すごく幸せそうな顔の望月さん。ああ、よかった楽しんでくれて。そう心から思った。何故だかこっちまで幸せな気分だ。

「じゃあ、帰ろうか」

「はい」

最初は乗り気じゃなかった買い物も、楽しくてもう空は真っ暗だ。田舎の星空と違って都会の光がきらきらと美しい。満足した俺たちは、帰りのバスターミナルに向かう。

「それで望月さん、どのバス?」

バスターミナルについて、どのバスに乗るか聞く。俺は、辻本先輩から帰りのバスについてなにも聞かされていないから、多分望月さんがバスについて知らされていると思う。

「え?」

「え?」

2人して同じセリフを吐く。

「帰りのバスは、望月さんが知っているんじゃないの?」

嫌な予感がして、恐る恐るそう聞いてみる。

「いえ、なにも聞かされてないですね」

辻本先輩、やりやがった。『プルル、プルル』というコール音とともに、辻本先輩に電話をかける。

「どうした1年?」

「どうしたじゃないですよ。俺たちの帰りのバスは??」

わざとではと疑ってしまうほど抜けているな、本当に。

「あ…」

「帰りのバスは考えていなかった…と」

「本当にすまない。後日交通費は払う」

これ以上文句を言ってもしょうがない。今度、責任は取ってもらうとしよう。

「わかりました。失礼します」

スマホの赤いボタンを押して電話を切る。

「やっぱり、バス取れてないみたい」

「あ、やっぱり…。ど、どうしましょう」

望月さんは、遠出に慣れていないからすごく不安な顔をしている。ここは男の俺が、か弱い女の子の望月さんをエスコートしなければ。

「バスが無いのはもう仕方がないから、電車で帰るしかないな」

とりあえずスマホの電車アプリを開いて、帰り道を調べる。まずいスマホの充電がなくなりそうだ。帰り道の電車を調べて暗記する。スマホは途中で使えなくなるだろう。

「ここから、2時間くらいみたい」

「終電は大丈夫そうですか?」

現在時刻は二十時三十分。

「終電はたぶん大丈夫」

会社員の帰宅ラッシュも時間的に巻き込まれないと思うから、安心して良さそうだ。あんな所に望月さんを入れることはできないからな。

「とりあえず、早く電車に乗ろうか」

なるべく早く帰るに越したことはない。

「はい…」

手を繋いで、不安でいっぱいの望月さんの心を落ち着ける。そうすると望月さんの顔が少し明るくなった。よかった。


改札を通ってホームで電車を待っていると、10分もしないうちに大月駅行きの電車が来た。この時間帯に大月方面に行く人は少ないのか、電車にはまったく人がいなかった。子鹿のように震えている女の子の手を握りながら、2人で電車に揺られる。

夜の都会というまったく知らない環境。それに予定が狂い、なにもわからない状況。望月さんは、女の子だし本当に怖いのだろう。何か心を落ち着ける話ができたらいいが、俺にそんなコミュ力は残念ながら無い。

俺は、それでもとっておきな話の話題を探すため、頭をパソコンのファンのようにフル回転させる。そうだこれしかない。

俺は、向かいのドアから景色を見ながら口を開く。

「ねえ、望月さん。少し昔話をしてもいい?」

「え?」

下を向いていた望月さんがこっちを見る。

「俺と小雪の話」

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