第10話 5月2日。「今では毎日の幸せ」

  8


5月2日。

朝日が眩しくて目を開ける。

「あ…」

望月さんがこちらをじっと見つめていた。

「おはようございます…湊音くん」

目があった望月さんが、ぎこちなく挨拶してくる。

「おはよう望月さん」

「あの、これは違うんです。私も今起きたところなので、たまたま目が合ってしまっただけであって、寝顔を見つめていた訳ではないです」

挨拶を返すなり、早口で弁明をしてくる。

「えっと、まだ何も言ってないけど」

「とにかく、寝顔を見つめていた訳じゃないです。ほっぺも触ってないですよ」

天然な望月さんがペラペラと白状してくる。俺は、寝顔を見つめられてほっぺたまで触られたらしい。

「ほら、起きたんですから早く準備をして出掛けましょう」

そう言って、望月さんは布団から出ていってしまった。明らかに怪しい時の望月さんだ。一様、他に何かされていないか身体中を確認する。異常は特になかったから、ほっぺたを触られただけらしい。

本当に、旅行中の望月さんは、浮かれていて隅におけないな。そんな事を考えつつ、俺も布団から出る。

いつもはもう少し布団の中に滞在しているのだが、今日は望月さんの買い物に付き合う約束がある。

とりあえず、ホテルの朝食バイキングに向かう。


バイキングレストランに到着すると、望月さんが先に到着していた。対面の席に座ると、目の前には、朝食が乗ったプレートがすでに置かれている。

「湊音くんの朝食も用意しておきました」

「助かるよ望月さん」

その朝食は、全て俺の好きな物ばかりだ。まるで、最初から知っていたみたいに的確なチョイスだ。

「あれ?俺の好物、教えたことあった?」

望月さんにそんな質問をする。好物の話は、一度もしたことがないはずだけど…

「確かなかったと思います。なんとなく湊音くんの好きそうなものを選んでみたのですが、どう…でしょうか?」

望月さんの顔は、とても心配そうだ。

「これ全部俺の好物だよ。ありがとう」

女の勘というやつは、思っていたより凄いらしい。

「それなら良かったです。早く食べましょう!私お腹空いています」

「わかった、わかった」

2人で「いただきます」と手を合わせる。

一緒のベッドで寝て、朝ごはんも2人で食べる。なんだか、新婚の夫婦みたいだなと思った。こんな事を考えるなんて、俺のほうこそ久しぶりの遠出で浮かれているのかもしれないな。

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