第7話 4月24日。「やっぱり詩乃には勝てないよ」

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4月24日。

この高校に入学して、約2週間がたった。

「ふあぁ?」

俺は、高校にも慣れてきて大きめのあくびする。数学の授業中だからだ。数学は特に嫌いな教科だから、早く時間が過ぎてほしいところだ。そう思い時計を見ると、授業開始からまだ20分ほどしか経っていなかった。

もう終わり頃かと思って寝るのをやめたが、思っていたより時間が経つのは遅かった。時計に何か細工をして、授業時間を長くしているのではないかと疑ってしまう。

そんな数学の授業中、ふと隣の望月さんを見ると、何やら紙を見てモジモジしている。何をしているのだろうか。怪しい密売でもしているのか?そんな様子を伺っていると、望月さんは紙に何かを書いて詩乃に渡している。

そう、2人は学生の授業中の暇つぶしの1つ、手紙回しをしていた。短い昼休みに話し足りない女子がよくやっているのを見かけるあれだ。真面目な望月さんが手紙回しなんて珍しい。余程面白い話をしているのだろう。

そんなことを考えていると、望月さんと目があう。何やら、俺の机の下で手をひらひらさせている。

何かと思えば、手紙が俺に回ってきたのだ。先生にバレないように手紙を受け取る。

早速、綺麗に折り畳まれた手紙を開く。

なになに、内容は…

「今度、図書委員会で遠征があるらしいですよ。ペアで有名な図書館に行って、記事を作るらしいです」

そんな、事務的な内容だった。わざわざ、手紙で聞かなくとも後で言えばいいのに。

そんな手紙は、望月さんと詩乃のしていた会話の紙とは、別の紙に書かれていた。二人の会話が気になっていたのに残念だ。

「なるべく行きたくはないから、うまく断る方法を考えないとな。風邪をひく予定でも事前に立てておくか」

そう書いて、望月さんに手紙を渡す。

図書委員会は、遠征なんてものもあるのか。めんどうくさいので行きたくない。望月さんは、渡した手紙を見るなり何やら書き込んでいる。

「小雪ちゃん、ちょっと見せて」

書き終えて手紙を折りたたんでいる望月さんに、詩乃がそんなことを言う。詩乃は、望月さんから渡された手紙を開き何かをしている。席の場所的に、ここからでは何をしているか見えないが、どうせろくなことではないだろう。

詩乃は手紙を畳んで、ニヤニヤしながらこちらに渡してくる。

「私と行くのはイヤですか?」

手紙を開けると、そんなことが書いてあった。

いつもなら、「ダメですよって」叱られているところだが、望月さんがこんなことを言うのは珍しいな。

「ごめん。そういうわけではないんだ。望月さんと一緒に行くのは、嫌ではないよ。というより、望月さんとなら行きたい…かな」

手紙を閉じて、望月さんに渡す。

なんか、俺もらしくもない事を書いた気がする。面と向かって話している訳ではないから、本音で話せているのかもしれない。

望月さんが、その手紙を開く。その手紙の内容を読むなり、急に机に突っ伏して詩乃の背中をポスポスしている。どうしたのだろう。

望月さんの行動を不思議がっていると、詩乃が一枚の手紙をポイっと投げてこちらに渡してくる。

先程とは違う紙のようだ。さっそく開いて内容を確認する。

「今度、図書委員会の遠征があるのだけれど、湊音くんは、どんな服が好みかな?」

「なになに。小雪ちゃんはみなとっちに可愛いって思われたいんだ?」

「う、うん。初めて一緒にお出かけするから、可愛いって思われたいな」

「じゃあ、胸元がチラチラ見える服を着ると、みなとっちは絶対喜ぶぞ?」

「詩乃、私は本気で悩んでいるの!」

「ごめんごめん。小雪ちゃんなら何を着ても可愛いと思うよ。」

「そ、そうかな?。可愛いって思ってくれたらいいな」

「大丈夫だよー。それに、みなとっちなら、どんな小雪ちゃんでも可愛いって言ってくれると思うよ。初デート頑張れ!」

「デ、デートじゃなくて遠征だってば!」

そんな、女子会みたいな内容だった。

俺は、赤い顔を隠すため机に突っ伏す。

おそらく、これはさっき2人が回していた手紙だろう。さっきから、心臓の鼓動がうるさい。望月さんに聞こえないように、深呼吸をして心を落ち着ける。

「という事なんだけど、みなとっちはどんな服がタイプ?」

よく見ると手紙の左下には、詩乃の字でそんなことが書かれていた。

本当この女の子には逆らえない。望月さんには、この手紙を見た事を隠しておこう。

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